第3話 うちの犬はけっこう重い
「さて飼い主。この30分で吾輩の散歩への愛がどれほどのものかは伝わったと思うのだが、反対に嫌いなものはわかるかな?」
「嫌いなもの? 猫とか?」
「散歩後のシャワーである。犬界の常識だぞ」
「土足じゃ上がらせないよ。日本人の常識だから」
私は両手でポチを抱きかかえて浴室へ連れて行く。「ぎゃー! やめろー! 犬でなしー!」と脚をバタつかせて抵抗するポチを必死で抑え込む。
「飼い主は知らんのだ、水の本当の恐ろしさを! 水とは生命を潤し維持するために欠かせないものである反面、時に樹木を薙ぎ倒し、岩をも穿ち、大地さえ削りゆく破壊神なのだぞ! あと濡れると気持ち悪い!」
「最後が本音でしょ」
「いやー!」
騒ぐポチを浴室に放り込んで後脚にシャワーのお湯をかける。ポチは足先に水がかかっただけで大袈裟に叫んだ後「あああ……あ……おお、良い温度だ」と気持ちよさそうに目を細めた。浴室に入るまではあんなに嫌がるのに入ってしまえば大人しくなるのがポチである。
対して私はポチとの格闘を終えて汗だくになった。息も絶え絶えだ。ポチがうちに来た頃はまだ小さかったから楽勝だったのだが、そろそろ私の手には負えないサイズになってきたな。
「昔は洗面器に収まってたのにねえ」
「吾輩もすっかり大人になってしまったな」
「じゃあそろそろ大人しくシャワー浴びてよ」
「うむ、約束しよう。明日から」
「約束の中でも一番信用できないタイプのやつだね」
気持ちよさそうな表情のまま、うわごとのように言うポチに苦笑しつつ私はポチの脚を洗った。
足裏の砂を洗い落としながら、ついいつもの癖で「今日もたくさん歩いたね。お疲れ様」と話しかけると「吾輩に苦はない。飼い主のほうこそお疲れ様であった」と返ってきた。
こっちも労われてたんだな、と私はまた苦笑を零す。
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