ヤンデレ後輩がおっぱい押し付けてくる話

樹 慧一

おっぱいと切っ先







「ねえ先輩、どうして私じゃ駄目なの?ねえ、ねえねえねえ」

「……」

 豊満な、音を付けるならむにゅりという感覚が頬を包む。赤らんだ可愛らしい顔、困り眉に潤んだ大きなラベンダーの瞳、荒い息。眼下でもじもじと動く太腿も悩ましく俺の足を掠め、お互いの熱が擦れては震える。


 俺にまとわりつく彼女の名前は、薦星こもせゆゆ。ハーフアップにした薄桃色の髪がふうわりと腰元を舞う、ツリ目がちの美少女だ。柔らかい線を描いて尚すらりと伸びた脚とちらと覗く胸元の白さが、眩しい。

 どう考えても俺とは不釣り合いな、学校のマドンナ、物語のヒロイン顔。しかし。しかしだ。ただ一つ、そして致命的なまでの難点が存在する。


「お前、モテるんだろう?俺じゃなくてもいいだろ、絶対」

「そんな事ない。ゆゆには先輩しかいないの。だから……ね? 」

「……」


 こんなぱっと見甘やかな状況で、刃物を俺の顎と自分のおっぱいの間に挟むようなヤンデレな点である。







 話の発端は数ヶ月前に遡る。

 俺が高校3年生に、そして薦星が1年生に上がった入学式前のある日。その外見でクソ程厄介な不良に纏わり付かれ体育館裏に連れ込まれた彼女を、不良にうっかり雑巾水をぶっかける事で助けた形になったのがそもそもの始まりだった。


 俺の方は雑巾がけの後の水処理が面倒で重くて外にぶちまけたら人がいた、やべえ。くらいの認識だった(後で不良にボコボコにされて非常に困った)のだが、その一連の偶然が彼女には『勇敢に割り込んで殴られてまで助けてくれた王子様』である様に写ってしまった、らしい。




「先輩、は、あ……好き……」

「お、おい、薦星」

「ねえ、先輩の心臓もすっごく鳴ってるね。はやくて、強くて、すっごおい……」


 それはお前が刃物を向けて、いや挟んでるからだろ!?そう言えれば苦労しない。柔らかおっぱいに、ギラギラ刃物。擦れる柔らかな肢体に、チカチカ光る切っ先。正直頭がおかしくなりそうだ。


「先、輩……。どうして駄目なの?なんで?なんでなんで? 」

「なん、度も言ってるだろ!俺は、俺は……」




「貧乳派なんだよ!!!! 」






 

ヤンデレ後輩がおっぱい押し付けてくる話〜残念ながらおれは貧乳派です〜

 第1話:おっぱいと切っ先






 尚まとわりつく薦星をなんとか振り払って迎えた翌日、朝。俺の1日は、玄関下の確認から始まる。

「ポスト影……よし!植木横……よし!扉の裏……よし!ま、ど……ああ、窓に!!窓に!! 」


 薦星がストーキングしていないかの早朝確認、撃沈せり。

 今日は窓から俺をにこりと見詰めていた薦星を認め、俺は膝から崩れ落ちた。

「お早うございます、先輩! 」

「ああ……おはよう……」

 消え入りそうな声で返す。

「あらあ、ゆゆちゃんじゃない!おはよう」

「ゆゆが来てくれるようになってからコイツ起こす手間がなくなって万々歳だわ〜」


 そんな俺の後ろからひょいと顔を出したのは、母と姉だ。当たりの良い薦星にすっかりと丸め込まれた外堀たちが、ニヤ、と音を立てそうな笑みを浮かべながら俺をぐいと小突いた。


「ごめんね〜ゆゆちゃん。うちの息子ったら奥手で意気地が無くて」

「さっさとくっつきなさいよね?女の子、しかも後輩に此処までさせてさあ」

 うるさい、人の危機も知らないで。言えて仕舞えば楽なのだが、いかんせん後が怖い。


「そ、そんな……!!わ、私が勝手に押しかけてるだけですから」

 しゃあしゃあと、よく言うな。顔を真っ赤にしながら手を眼前で振る可愛らしい挙動の彼女を見た、俺の感想だ。昨日も応えてくれなきゃ殺っちゃうぞ、な勢いだったろ。




 薦星が来てからというもの不可抗力で早起きになった俺に愛の力ね、と抜かす、いやお抜かしになられる姉を尻目にパンを齧る。ちなみに、当然のごとく隣には薦星の笑顔付きだ。くるんと綺麗に丸め込まれた家族にとって、最早薦星とのお付き合いは確定事項らしく、薦星の彼女ヅラを咎めようともしない。


「あ、先輩はサラダにはシーザードレッシングでしたよね? 」

「んぶ!? 」

「やーん、奧さんみたい」

「そそそんな……!! 」

 好みを覚えられた。怖い。







「では、行ってまいります! 」

「……ってきます……」

「ゆゆちゃん、気をつけて! 」

「襲うなよ〜!弟! 」

「だ・れ・が!! 」

 引き連れられて、朝。げんなりとした気持ちで学校への道を歩く。と、程なくしてむにゅん、という感触が腕に引っ付いた。


「先輩、不良の人……怖くて」

「ん、おお……」

 どうやら薦星の目についてしまったらしい如何にもなチンピラが、こちらを一瞥して舌打ちした。あれは確か、俺が水ぶっかけた奴の腰巾着だっけか。


「あいつは一人だとおとなしいんだ、ドンと構えとけよ」

 お前のが怖いし。そんな心の声は何とか堪えて、目を逸らして薦星に告げる。すると、今度は俗に言う恋人つなぎの形で俺と薦星の手が繋がった。

「先輩、やっぱりやさしい……!!から、離さないで学校まで行ってくれますよね?ね?ね? 」

「なんでお前いちいち怖えの?」







「起立、礼ーー」


 ガタガタ、とそれぞれの椅子が鳴る。授業の時間、俺の安寧の時間の始まりだ。

 いかに薦星が纏わり付いてくると言えど、真面目なあいつは授業中までは仕掛けてこない。まさか授業の時間がこれほど楽しみになろうとは、と感慨に耽っていると、不意にポケットに忍ばせたスマホが震えた。


「あ?lime?……!! 」

 表示された名前に、思わず息が止まる。

「薦星、ゆゆ……!! 」

 安寧の時間、崩れたり。




『こうして話すの、新鮮ですね! 』

無視。

『先輩? 』

無視無視。

『ねえ、返事ください』

無視無視無視。

『スタンプでもいいんです』

無視無視無視無視。

『先輩』

『なんで』

『先輩』

『さみしい』

『先輩』

『ひどい』

『よんでるくせに』

『しんじゃう』

『へんじくれないとしぬから』 

『へんじください』

『先輩』

『いっしょに』

『いっしょにしの』

『ずっっといっしょにいられるように』

『いっしょなら無視されない』

『limeきらいきらいきらい』

『せんぱいへんじくれないから』


「っだーーーーーーー!! 」

 繋がった瞬間からの、波状攻撃。あまりの恐怖に、俺はあっさりと撃沈した。

「頭痛いので、保健、室、いぎます……!! 」







 所変わって、保健室。やっとこたどり着いた扉を、俺は力なく引き開けた。

「すみません、調子悪、くて……あれ? 」

 先生が、いない。

 それなのに鍵が開いていた不思議に頭をひねる。そうしてぼけぼけと室内に突っ立っていると、不意にベッドから伸びた手に身体を引かれて俺はベッドへと崩れ落ちた。

 あれよあれよと言う間に布団の中に絡め取られた視線の先、に居たのは。

「ひ、こ……薦星!? 」

「先輩、やっぱり来てくれた……! 」

「え、ええ……!? 」




 引き込まれた布団の中に居たのは、何といつの間にかあられもない格好でおれの上に跨った薦星だった。なんでお前が!?その前に、何だその格好!?そう言う前に、薦星が俺の身体へと沈み込む。


 何とは言わないが見えそうにはだけた胸元、白い腹、何故かないスカート。こいつ、俺以外が入って来てたらどうするつもりだったんだよ、と逆に何処か冷静になった俺の顔に、薦星の豊かなおっぱいがめり込んだ。

 柔らかな肌のにおいとブラのレースが鼻をくすぐり、むず痒く暖かい。


「お、おい!? 」

「せんせー、暫く帰ってこないんです。お願いしちゃった、から」

「お願、い!?まさかお前、先生まで丸め込んで……」

「ここで既成事実……作っちゃいましょうか」

「!? 」


 そう言って薦星がさわさわと触れる股間の、何と脆弱な事か。本意とは反して脈打ち出したそれを、薦星がそうっと白い太ももの上部、所謂……で挟み込む。そのままゆっくり揺れて、戻ってを繰り返し始めたそこに、どうしても意識が集中してしまう。


『だ……駄目だ!臨兵闘者皆陣列在前、2、3、5、7、11、13、17……七原きらり、神橋えら、宵川べりい……っあ!? 』

 九字素数貧乳グラドルと唱えて心頭滅却を図るも、時すでに遅し。

 なんの香りか甘く香る布団の中に、二人分の熱い息が篭って、そして。

「えへへ、今ツンってしたら、どうなるんですかね? 」

 股間に当たった、鈍く光る切っ先の感触に。


 俺はあっけなく負けてしまった。




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