第4話

   

「は?」

 ぽかんとする有野に対して、松本は続ける。

「ほら、お前、さっき言っただろ。少しは女慣れしたい、って。だから婚活だ」

「待て待て。女性に対する苦手意識を減らしたいだけだぞ。まだ結婚する気なんて……」

「それでも構わんから、まずは婚活サイトに登録しろ」

 松本の理屈はこうだ。

 本当は彼自身が誰か世話したいところだが、有野に相応しい女性を知らない。周りにいるのは、今夜の後輩みたいな者ばかり。

 それならば、いっそのこと、信頼できる婚活サイトで探す方が良いだろう。

「いいか、間違えるなよ。出会い系サイトじゃなく、婚活サイトだぞ」

「わかっている。出会い系サイトっていうのは、チャラチャラした連中の溜まり場だろ。婚活サイトだって、同じようなもんじゃないのか?」

「偏見だな。まあ実際、そういう悪いサイトもあるかもしれんが……。ちゃんとしたところを選べば大丈夫だ」

「そんなこと言われても、僕には見極めは無理だね」

「ああ、そうだろうさ。だから、俺のオススメを教えてやる。スマホを貸せ」

 オススメの婚活サイトがあるということは……。松本は女性に不自由しないタイプなのに、それでも婚活サイトに登録しているのだろうか。

 意外に思った有野は、そちらに意識が行ってしまった。半ば無意識のうちにスマホを取り出して、言われるがまま松本に差し出す。その結果、

「よし。これで有野も『ベストカップル誕生』のメンバーだ」

 勝手に登録されてしまうのだった。



 婚活サイトへの登録。

 酒の席における冗談みたいな話であり、普通ならば翌日には忘れるレベルだったが、そうはならなかった。

 有野の意識に強く引っかかったのは、『ベストカップル誕生』というサイト名だ。お気に入りのアイドルアニメに出てくる、劇中番組『ベストスター誕生』。それと名前が似ていると思って、好感をいだいたのだった。

 実際、松本が勧めたくらいだから、良心的なサイトなのだろう。

 登録情報として、生年月日、身長や体重、学歴や年収などの他に、趣味を記入する欄もある。これらはユーザー本人とサイト運営側だけが閲覧できる仕様であり、それに基づいて運営がマッチングした相手には、互いの個人情報は見えないシステムになっていた。

「まあ僕の場合、趣味が『深夜アニメ鑑賞』になっているし、こんなんでマッチングされる女性なんていないだろうけど」

 松本と飲んだ翌朝、有野はスマホの画面を眺めながら、自嘲気味な笑みを浮かべたのだが……。

 数日後、『ベストカップル誕生』の運営から連絡が入った。ぴったりの女性が見つかりました、というメッセージだった。

   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る