夢十夜

祐喜代(スケキヨ)

第一夜『猫』

こんな夢を見た。


まるで雑巾を絞ったかのように体のねじれた猫が、コタツの横に転がっている。

家で飼っている三毛猫なのだが、口から血の泡を吐き、体中の穴から内蔵や排泄物が飛びだしている。

下半身はピクリとも動かないのに、上半身だけは生きようと必死にジタバタ動き回っている。ふいに茶の間に入ってきた母が、そんな猫の様子を見て

「気持ち悪いから捨ててきて」と僕に言った。

「なんで、俺がっ……」と反発したが、母は猫を見ようともせず、足で僕を小突いて再度捨ててくるよう促した。

母は猫がとても好きだ。よく可愛がり、猫も母によく懐いていた。そんな母がなぜか自分で猫を処理しようとしない。

きっと母が好きなのは、猫が猫らしく生きている時の「猫」で、今目の前にいる目が半分飛びだした死にかけの猫は、母にとってただグロテスクな何かでしかなく、もう「猫」として認識されていないのだろう。 

いかに愛着があろうと、その面影がなくなるくらいまで変わり果てたものに対して、人間はこうも極端に冷淡になれるものらしい。

そういう僕も目の前で死にかけている猫を、もう以前の飼い猫として見ていなかった。母が「捨てて」と言った時点で、それは僕にとってもただのグロテスクな存在でしかなく、見れば見るほど不快感だけが増していった。

僕は渋々その生ゴミである猫の足をつまみ上げ、なるべく自分の身体から遠ざけて歩いた。時折猫が上体を反らして僕をつかもうとすると、その動作が気持ち悪過ぎて僕は何回も猫を床に落とした。

茶の間を出て玄関の前まで来ると、僕は外に向かって猫を放り投げた。出来るだけ遠くに行くよう思いっきり投げた。

本当にゴミのような最後だ。遠目で見ると路上に横たわる猫は得体の知れない物体にしか映らない。僕はしばらくそのまま放った猫を眺めていたが、時折ピクピクとしぶとく動く猫の生への執着心みたいなものが怖くて、慌てて家の中に入り、家中の扉を全部閉めてコタツに潜った。

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