第82話父上の優しさ
そして、俺のこの姿と態度、ここに至るまでの行動を知った上で皇帝陛下は『対価として何を差し出せる』と問うてくる。
当たり前だ。
この場と時間を作って貰う事だけでも本来であればかなりの物を捧げなければ、謁見などできよう筈がない。
今日こうして皇帝陛下に会えるという事だけで、皇帝陛下の息子としてさせてもらえる最後の我儘だという事も理解している。
これ以上の特別扱いはさせて貰えると思う事の方が烏滸がましい。
しかし、今までの俺であれば、きっと喚き散らしていただろう。
だからこそ、今の俺の姿があるのだと思うし、当然の報いでもあり、そしてこれでもかなり罰を軽くしてもらっている事も今ならば理解している。
そして俺は、顔を上げて父上である皇帝陛下へ視線を向ける。
「はい、対価として私の皇族という血筋を捧げさせて頂きます。 これで、皇族の血筋の歴史に泥を塗る愚息の存在は無くなります」
「…………ふむ、どうやらお主の意思は固いようであるな。 よかろう、お主のその意気込みと覚悟、しかと受け止めさせて貰った。 よって、マリーの身体の秘密を教えようではないか。 其方はこれより我の息子でも何でもない、いち帝国市民の一人に過ぎぬ。 飛び地にある施設など、今までは腐っても皇族故使用できる全ての物も使用できなくなる者と思え」
「あ、ありがとうございますっ! ありがとうございますっ!」
「来週、ウィリアムも一緒にこの場へ来るといい。 その時にマリーの身体の事をお主とウィリアム、二人に教えよう。 当然その内容にはゴルード家の知らない内容も含まれる」
恐らく、マリーの身体の事を調べ、そして治そうとしているのが俺の他にウィリアムもそうであるのだと初めから知っていたのであろう。
そしてこれが、最後となる、父親としの優しさなのだろう。
俺は、今までこの父親としての優しさが当たり前であり、当然の事だと勘違いしていたのだから救えない。
「あ、ありがとうございますっ!! ありがとうございますっ!!」
これ程父上の優しさが有難いと、思った事はなかった。
そして父上との謁見が終わり、俺は与えた部屋に戻ると、緊張が解けたのと、マリーの身体について、それもウィリアムと一緒に聞けるという安心感で一気に脱力し、数時間は動く事ができなかった。
そして何とか気力が回復してきたところで本日の事をウィリアムに伝えるのであった。
◆
翌週、ウィリアムと一緒にマリーの身体の事を聞いたのだが、俄には信じられないような内容であった。
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