第40話負のスパイラル

「ひぃいっ!! これだからバカの世話は嫌だったんだよっ!! こんな事で不敬だと殺されるような事があっては命がいくらあっても足りやしないっ!! こんな場所俺の方から願い下げだよっ!!」


 そして使用人は捨て台詞を吐いて部屋を飛び出していく。


 少し前の俺であれば即不敬罪に処したのであろうが、それすらもできない今の自分に権力が無い事が尚の事腹が立つ。


 しかしそれも今日までだ。


 明日学園へ行って直接マリーへ婚約破棄を解消して再度婚約さえすれば全て元通りである。


 マリーを第一夫人にするのは癪だが、婚姻した後は離宮にでも閉じ込めておけば良いだろう。


 幸いにも俺にはスフィアという最愛である最高の女性がいるのでマリーを表に出す意味も理由もない。


 今まで待ってやっていたにも関わらず全く謝罪にすら来ないマリーには先ほどの使用人と同様に、教養という物が無いのであろう。


 まぁ、それも婚姻するまでの辛抱と思えば、皇帝となるまでの試練とでも耐えられるというものだ。


 それにしてもいくらこの場所が離宮の一つだと言えどこの使用人達の使えなさは何だ?


 いくら何でも酷過ぎる為いまからでも父上へ抗議文を送ろうと紙とペンを取るのであった。






「ほら、着いたぞ」

「いちいち言わなくても見れば分かりますわ」


 翌日、ストレスでキリキリと痛む胃を押さえ耐えながらようやっと馬車が学園へ着くいたようである。


 するとひとつ前で走っていた馬車からウィリアムが降りて来るとわたくしが乗っている馬車の扉を開けて手を差し伸べて来るではないか。


 今目の前で紳士ぶっている男性があの筋肉ウィリアムだと思うとあまりにも似合わな過ぎて寒気で身体が震え、鳥肌が立ってくる。


 本当、黙っていればカッコイイのに勿体無い。


「ひやっ!?」


 そして出された手を振りほどく訳にもいかずそっと手を添えて馬車から降りようとした瞬間、ウィリアムがわたくしの手をギュッと掴んだかと思うとそのまま力任せに引き寄せ、その勢いのままお姫様抱っこをしてくるではないか。


「体調があまり良くないのではと判断した」

「そ、それでも歩けますわっ! 下してくださいましっ!!」

「いつもは何でもないように振舞ってはいるが実際はその身体で歩くのも辛いのだろう? それに体調の悪さが重なっては学園まで歩けないのでは?」

「そ、その時は休み休み行きますわ」

「却下だ。 大人しく担がれておけ」


 その体調不良の原因であるストレスを作っているのはウィリアム本人であり、今まさにストレスの原因を作っているんでしょうぉぉぉぉおおおおっ!!


 と、腐っても公爵家の令嬢である為叫ぶ事が出来ないわたくしは人目を気にして心の中で叫ぶ事しかできないのが、それがまたストレスとなる悪循環。


 負のスパイラル。

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