第30話警戒してしまう

 そしてわたくしはウィリアムの力強い腕から抜け出せる力がある訳もなく、ただただされるがままにお姫様抱っこされた状態で校内を練り歩くという羞恥心に耐えられる訳もなく厚い胸で顔を隠しながら、まるで罰ゲームの様な状況を耐え凌いでいると、急にウィリアムは足を止める。


 一体何処に連れていかれたのか周囲を確認すべく羞恥心を押し殺して顔を上げてみると、そこは校舎裏にある雑木林であった。


「いつもどこで休憩をしているのですか?」

「も、もう少し奥の方ですわ……」


 ホント、あのガサツで脳みそ筋肉のウィリアムからこの様な扱いをされ、口調まで丁寧な口調で話しかけられては違和感があり過ぎてどのように対応して良いのか全く分からなず、むしろ何か企んでいるのではと身構え、警戒してしまう。


「なるほど、ここですね。確かにこの一帯だけ不自然に手入れされていますね」


 そういうとウィリアムはわたくしを優しく下ろし「少し待っていて下さい」と言うと、どこから取り出したのか地面に大きめのシーツを敷き始める。


「前回は貴重な休憩を邪魔して申し訳ございませんでした」

「……………………それはもう過ぎた事ですしなんとも思ってないのだけれども、その口調は何なんですの?違和感があり過ぎて気持ち悪いですわよ。わたくしの前だけでも元に戻してちょうだい。頭がどうにかなってしまいそうですので」


 そしてウィリアムがシーツの上へ座る様に促して来るので、せっかく用意してくれた好意を無下にするのも気が引ける為座ると、先ほどから違和感全開のその口調について指摘をするついでに元に戻せと強く抗議する。


「まったく、人が変ろうとしているというのにお前という奴は……」


 そしてわたくしの言葉を聞いたウィリアムは頭をガシガシと搔きながら口調を元に戻してくれる。


 やっぱりウィリアムはこの喋り方よね、うん。


「俺はこれでも反省したんだぜ?」

「何をですの?」

「全てだ。皇位継承第一位であったカイザル殿下の近衛兵になるなどと思っていながら乱暴な口調に乱暴な態度もそうだし、勝手に決めつけてお前に暴力を振るった事もそうだ。貴族であるにも関わらず賊のような立ち振る舞いもそうだし、考え方も何もかも。でもそれらが許されているのは俺がまだ家督を継いでおらず、近衛兵でもなく、ただの貴族家のドラ息子だと思われていたからだと気づいたんだよ」


 そう言いながらわたくしの目を真っすぐ見つめて来るウィリアムの瞳は真剣そのもので、吸い込まれそうな程美しいと思ってしまう。

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