第27話ここはぐっと堪えて我慢の時

やはり聞いていなかったのね、と思うもののだからといってスフィア様が可哀そうだとは微塵も思わない。


カイザル殿下という奴はそういう奴だと骨の髄まで身に染みたので、そんな奴の上辺だけしか見ていない、異性を見る目が壊滅的なスフィア様の自業自得だとしか思えない。


わたくしの場合は幼少期に、半ば強引に婚約が決まったので異性の見る目が無いという訳ではない……はず。


「ごめんよスフィア」

「皇位継承権が一位じゃなくなるって本当なのっ!?」


本当も何も、一位どころか継承権すら怪しいのですけれども。


とわたくしは心の中で突っ込む。


「皇位継承権については大丈夫だよ、スフィア。先ほどもマリーが言っていただろう?俺にゴールド家の後ろ盾さえあれば問題ないんだ。少し癪だが第一夫人はマリーに譲ってしまおう」

「そ、そんなっ!?私カイザル殿下の一番じゃなきゃ嫌ですっ!!」

「勿論俺の心はいつだってスフィアが一番さ。だから第一夫人と言っても所詮は肩書だけであり俺の心までは変わりやしないさ。それに、面倒くさい業務や外交などは全て第一夫人にやらせれば良いさ」

「そ、それもそうねっ!!」


最早、一体どこから突っ込めば良いのか分からないくらい突っ込みどころ満載の会話をしている二人に頭が痛くなってくる。


いくら頭がお花畑だったとしてもここまでバカ丸出しではたとえ皇帝となれたとしても帝国がこの二人のせいで一気に傾いていく未来しか想像できない。


「と、いう訳でマリー、君も聞いていたと思うのだが、君への婚約破棄を解消させてもら──」

「寝言は寝てからおっしゃってください」


あまりにも想像通りの展開に、思わずカイザル殿下の差し出した手を弾き、まだカイザル殿下が言い終えていないにも関わらずわたくしは返事を返す。


無礼だとか何だとか、このバカ二人には無縁の事なのだから別にいいだろう。


「き、貴様っ!!皇位継承権第一位の俺に対して、無礼であるぞっ!!不敬罪で投獄されたいのかっ!?」

「ほう……。あのような最低な婚約破棄をした上に、何事もなかったかの様に婚約破棄を解消するとおっしゃるのは無礼ではないと?」

「ど、どこが無礼だと言うのだっ!!むしろこの俺の、未来の皇帝の第一夫人となれるのだぞっ!!これ程栄誉ある事があるかっ!!恥を知れっ!!」

「あ?」

「ひっ!?」


おっと、思わず素のわたくしが出てきそうになりましたわ。いけないいけない。


このバカ相手に怒っても無意味ですし、同じ土俵に上って怒ってしまってはわたくしにとって、そしてわたくしが背負っているゴールド家にとって不利益しかございませんもの。


喧嘩は同レベルとしか起こらないと言いますし、ここはぐっと堪えて我慢の時でしてよ。

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