第3話唯一楽しみ
しかしそんなわたくしの行動は全て失敗し、そしてカイザル殿下の私に対する好感度も、無関心から嫌悪へと変わってしまった。
いや、むしろ記憶の中にあるカイザル殿下の私を見つめるあの目は嫌悪ではなく可哀そうな者を見る様な、圧倒的に劣っている者を見下す様な、そんな目であった。
そして明日は断罪の日。
今からわたくしが犯人ではないという証拠を集める時間すら無い。
「はぁ、明日のパーティー行きたくない……」
今まで文字通り死ぬような思いで必死に覚えて来た皇族となるべく身につけなければならない教養やその他もろもろが砂の城が波に飲まれるかの如く一瞬にして覚えている意味がきれいさっぱり消えてなくなってしまうのだ。
そりゃ、原作でマリー・ゴールド自殺もしますわ。
ゲームをプレイしていた時は魔力欠乏症の事も何も知らなかった為『たかが婚約破棄くらいで、プライドの高い女ね』などと思っていた自分を殴ってやりたい。
そんな事を思いつつ私は再度溜息を吐くのであった。
◆
時間というのは残酷で、止まってほしいといくら願った所で止まってくれたりなどしない。
「憂鬱ですわ……」
「あら、マリーお嬢様がパーティー当日にそのように気落ちしているのは珍しいですね」
パーティー当日は朝目覚めたその時からストレスでどうにかなりそうな程には気分が悪く、そんな私の姿を見て側使えのメイドであるアンナが心配げに私の顔を覗きながら話しかけて来る。
因みにドレスは大金を叩いて糸に魔力を練り込み極限まで軽くしている為に苦では無い程の重さになっている。
そもそも今までのわたくしは、パーティーだけが唯一と言っていい楽しみであった。
というのも学園が休みの日は全てカイザル殿下へ嫁ぎに行くために必要なマナーや知識の勉強、そしてただでさえ赤点ぎりぎりの学業の勉強を調子がいいときは合計で六時間程行っていたのだ。
魔力欠乏症の私は六時間勉強しただけで歩くこともできない程疲弊してしまう為勉強が終わった後に外へ出かける元気など余っているはずがない。
そして、当然の事ながら学園へと通った日も約六時間程勉学をするのだから放課後にどこかへ寄り道するなどといった青春めいた事など一度たりともしたことが無い。
私はいつも外で遊ぶ子供たちや放課後楽し気に過ごす学生達を羨ましそうに眺めているだけ。
そんな私が唯一楽しみにしている事とは、パーティーへ参加する事であった。
パーティーへ参加する日は当然学園や勉強はお休みである為パーティーの時間を乗り切るだけの体力はあるのだが、だからと言って当然体力が増えたわけでもないのでダンスなどはできない等の縛りはある。
それでも、他の人が楽しそうに過ごしている空間にいる事だけで私も楽しかった。
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