第56話 穢れの戦域バースクーラ
穢れの戦域バースクーラ。
それと出会ったのはほんの偶然だった。
私がヴェルデ国のオアシスに辿り着いた時だった。
私は今までドラゴンやガリオン、ニュムパやローロパパガイなど様々なモンスターと出会ってきた。
だが、こいつは、バースクーラというモンスターだけは違う。
これはまさしく怪物だ。
砂漠を統べる大いなる意思とでも言おうか。
何よりも暗く、深く、彼の深淵のように私ではその全容を把握することはできなかった。
わかったのは、これが血に濡れた戦場に端を発しているということだけだ。
いつまでも恨みを忘れないでいる。
もし動き出したならば、全てを滅ぼすだろう。
死の島で巻き起こった血に濡れた惨劇を乗り越えた私ですら戦慄するほどの恐怖を、忘れることなどできないだろう。
手を出すな。
もしバースクーラに遭遇した者に私が言えることがあるとすれば、それだけだ。
運よく、彼が眠っていることを祈ろう。
もし動き出していたならば、諦めろ。
――冒険家オルター・マラン著
――パナギア大陸モンスター図鑑より
●
「場所は判明した」
就寝し、ちょっといい感じのえっちな夢を見ていたわたしは、帰還したファラウラたちに叩き起こされた。
もう少しだったものを、とちょっと怒ったところであるが、アイリスが捕らえられている場所が分かったのならば悠長に寝ている暇などない。
どうやら俺が寝てから1分らしい。
1分で夢を見れた俺、凄くないか?
いや、あれ夢じゃなかったのでは……?
いかん、頭が全然回らない。
えっと、場所がわかったんだっけ?
「でもなぁ」
エリャはどうにも変な感じである。
煮え切らないというか。
「何か問題でも?」
「ええ、問題ですわ。砂漠そのものにふさがれていますの」
砂漠そのもの。
バースクーラと呼ばれるモンスターが、イードールム・ヴェルデ1世の居城を守っている。
つまるところ砂漠に埋まっていて、その砂漠がモンスターなのでおいそれと手出しができないということらしい。
「なるほど……つまり、爆撃ですね?」
「あんたはさぁ……」
「ですが、それが1番でしょう。最大火力をぶつけてフッ飛ばせばいい」
俺はこの時、何を言ったのか覚えていない。
後から聞いたらこんなことを言っていたらしい。
ちなみにこのあとのことも大体、記憶が虚ろで、本当に覚えがなかったりする。
俺は相当に無茶をやらかしたことだけは確か。
1日中魔術を使って、戦った後に眠らずにいたりしたわけだから、さもありなん。
眠ろうとしたら叩き起こされたしで、休息も十分ではなかった。
反省案件である。
クローネがいなくて良かった。
「あんた、一旦寝た方がええんとちゃうか? まあ仮にそれしても砂漠のごく一部だけやろ。砂漠全部フッ飛ばさんと、すーぐ元通りふさがれるだけや」
確かにそうである。
この大陸のモンスターの厄介ポイントは、とにかく生命力が高く再生能力が高い点だ。
それは巨体であるがために攻撃が意味をなさないであったり、治癒力ですぐに再生したりあったり色々と種類はあるのだが、バースクーラの総体はこのヴェルデ国そのものとほぼ同じだ。
少し削っても他から持ってこられたらすぐに元通りになる。
「ニメアはん、砂漠全部吹っ飛ばせるんか?」
「そうですねぇ……無理です」
いくらわたしであろうとも、そんな大威力の魔術を使おうとしたら呪いの制御が追い付かないで頭がボンってして死ぬ。
ただでさえ制御難という特性でもついてそうなわたしなのだから、謙虚に行こう。
そうなると本気で突破方法を考える必要がでてくる。
「ハーウェヤ様に絵画で穴あけてもらって、即座に突入とか?」
「それでも良さそうやけど、帰る時どないするん? そもそも逃げ道ないのに突入とかしたくないやろ」
いつ何時も逃げ道があってほしい、そう思うのはわたしも一緒だ。
それにバースクーラという砂漠そのものなモンスターはイードールム・ヴェルデ1世の手駒だ。
こんな巨大な手駒を残して置いたら、後々どうなるかわかったものではない。
最悪、イードールム・ヴェルデ1世だけ逃げて、生き埋めにされたらこちとらどうしようもなくなってくるだろう。
「結局、倒す方が安全ということですか」
もっともその倒す方法がまるでわからないわけだが。
さてどうしたものかと考えたところに天啓が降りてくる。
「あ……アショーカ!」
「なんや、どないした?」
「アショーカですよ!」
「それうちの面倒な遊びだろー? 何ができんだよ」
アショーカにも似たような状況にされたことがあった。
アイリスにより、フィールドをモンスターにされて呑み込まれた覚えがある。
その時の解決法が、使えるんじゃないか?
それを全員に説明する。
聞いたハーウェヤ様はいぶかしげにしていた。
「しかし、そのようなことが可能なのですか? グレイ王国にはそのような魔術があると」
「ええ、そのようなものです。とにかく試してきます!」
この時の俺は、ちょっと疲れとかで若干ハイになっていたようだし、アイリスを助けるためというのもあってなりふりを構う気が失せていた。
引き留めてくるエリャたちを振り切って、さっさと砂漠へ飛び出した俺の浅慮は、自己嫌悪クラスである。
なんという黒歴史。
とかく、相手から呪いを奪う。
弱体化させたところを侵食し返すために、ひしめくモンスターを薙ぎ払って砂漠に手をついた。
バースクーラは呪いを認識していないから簡単に引っぺがせる。
これが俺のチートだああああ、あばばばば、呪いの量が、ヤバイ!
ヤバイッて、逆リュ、あ、ぼんって、ぼんってなる!
「し、進化!」
それをすべて進化のロガル文字にぶん投げて、バースクーラ自体を無害な緑あふれる森へと変化させる。
ごっそりと呪いが持っていかれたのがわかった。
俺が普段使いしている身体強化用の呪いまで全部持っていかれた。
今の俺、ただのか弱い少女!
だが、周りのモンスターどもは俺に手を出せない。
巨大な樹木が俺を取り囲んでいるからだ。
「これ行けますね!」
それに某忍者漫画の木の忍術っぽくて、俺今、最高にカッコイイと思う。
無駄にパチンと合掌して、手をついて呪いを吸引しつつ進化のロガル文字を行使する。
「あ、ぐぅ!?」
しかし、そう簡単にやらせてくれないようで、俺の腕や足を砂が侵食してきた。
指先が干からびたようになってくる。
とてもヤバイ気配。
味方を頼りたいが、これをどうにかできる味方などいないし、俺の緑化魔術によりそもそも俺に誰も近づけない。
あれ、俺かなり早まったやつだよね?
寝不足の中で解決法思いついてツイ、勢いでやってしまったけど、これ俺、マズイやつだな……?
「は、ははは、もう気合いだああああああああああああああ!!」
魔術使い過ぎでハイになっていた、俺、こういうのばっかりだ。
呪いを吸って、進化のロガルを行使する。
砂漠を消す勢いだ。
もう良い消えろ。緑の森になれええええええええ!
ヴェルデ国が森に包まれる。
俺は、どこかに堕ちているかのような浮遊感を感じていた。
「――ぅぁ!?」
完全に意識が落ちかけていた。
ヤバイヤバイ。
俺なにしてた?
俺の記憶がはっきりしたのがこの辺りである。
なにをやったのだろうか。
「気がついたら周りは森だった」
周りは森になっている。
モンスターどもは完全に森の木々に押されて潰れている。
今の所安全。
とりあえず近場で死んでいるモンスターから呪いを剥ぎ取って、身体強化を再開する。
「とりあえず、何か呪いがなくなってたから補充して……ふぅ……これで一安心」
「なぁにいきなりしとるんやあんたは!」
「うごー!?」
背後からのエリャキックを喰らってしまった。
「いや、えっと、覚えてない!」
「覚えてないとか、アホかああ!」
「いやすげーすげー! オレと戦ってくれよ!」
「ルーナさん、今はやめておきましょう。それよりニメアさんは、急いでアイリスさんのところに向かった方が良いのでは?」
「あ、そうでした。行きます!」
風の魔術で教えてもらった座標にひとっ飛び。
「アイリスを返せー!」
キックと共に王墓に殴りこんだ。
結論、睡眠重要。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます