第92話ここは恥ずかしいけれども我慢

「罰なんだが、俺もシャルロットの事を、今日一日撮っても良いか? そしてそれを『写真』とやらにして残したいんだが」

「そ、それを言われましたら、私も撮っていた手前ダメとは言えないではないですの……。 わかりましたわ。 今日一日はいくらでも撮っても、そして何枚でも写真にしても構いませんわ」


 さすがブレットというか何というか。


 私が断り難い事をピンポイントで突いてくる。


 むしろわたくしの妄想の方があまりにも酷くて恥ずかしくなってくる程だ。


「良かった。 これでシャルロットから言質を取れた訳だし、今日はシャルロットとのデートとはまた別の楽しみが出来たよ」

「きょ、今日だけですわよっ!!」

「分かってる、分かってる」


 そしてブレットは早速私からスマホを借りて写メの撮り方を学び、周囲を撮り始めるではないか。


 何だろう。


 いざスマホを渡して、今日一日ブレットに撮られると思うと、わたくしが思っている以上に緊張してきましたわ。


 他人に日常風景を撮られるという気分はこんな感じなのだろうかと、密着取材をされている芸能人の気持ちがほんの少しだけ分かった気がする。


「それで、本日はどこへ向かうんですの?」

「今日はタリム領の西側にあるラヴィーニ伯爵の領地、カルメリアに行く予定だが、他に行きたい場所があればそっちへ変更しても良いぞ?」

「まぁっ! 風と水の都ですわねっ! なんだかんだでわたくしカルメリアには観光目的で今まで訪れた事がなかったのでとても楽しみですわっ! 他の場所へ変更などとんでもございませんっ!」


 カシャ


「写メを撮るときは事前に撮って良いか確認するつもりだったのだが、あまりにもシャルロットの笑顔が可愛すぎてつい。 申し訳ない」

「べ、べべべべ、別に良いですわよっ!? きょ、今日はそういう罰も込みですものっ!!」


 あまりにも不用心すぎたと言わざるを得ない。


 何も考えず思うがまま笑った表情を撮られた事は、確かに恥ずかしいし、できる事ならば削除してほしいのだが、もし逆の立場だと考えた場合『自然な感じでとても嬉しそうに笑うブレットを写した写真』というのは間違いなくわたくしの宝物の一つとして後生大切に持っていそうな程の物になるのは間違いないため、それを考えた場合『削除してほしい』とはとてもではないが言えない。


 そもそも、わたくしはブレットと違って卑怯にも盗撮していた訳ですし、これくらいの事ならばわたくしには文句をいう資格すらない。


 ここは恥ずかしいけれども我慢である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る