第61話次の展開



 ◆



「先生っ! さようならっ!」

「はい、さようなら」


 早いものであれから一年が経った。


 嬉しいことにあのバカ殿下からの手紙はあれ以降来ることも無く、至って平穏な生活ができている。


 唯一変わった事といえばわたくしとブレットが学校の教師として教壇に立っている事だろうか。


 この学校なのだが二階建てのかなり大きな校舎を作っており、二学年の全十六クラス作っているのだがその全ての教室が鮨詰め状態である。


 当初の予定では半分が埋まればいい方だと思っていたのだが、蓋を開ければ予想以上に反響がよく、その為教師不足から結局わたくしやブレットまで手伝わなければ回らない状態となってしまっていた。


 お昼ご飯を無償に提供すると言うのが大きかったのか、文字や計算を覚える事ができると言うのが大きかったのか、その両方か、どちらにせよ、ここに来てくれた子供が最低でも読み書きと計算を覚える事ができるというので兎に角嬉しい誤算である。


 この学校はに学年とはしているものの、十歳以下の子供は、その年齢を超えるまでは無料で通ってもいい事にしている。


 学校というよりかは託児所件塾といった感じだろうか?


 ちなみに、子供達は学校で学んだ事を自分の両親へと教えている家庭も多く、ここタリム領だけ見れば識字率はかなり向上して行っている。


 そして、識字率が向上する事によりやっと次の展開へと移行することができる。


 まさかここまで順調に識字率が上がってきているとは思わなかったので嬉しい誤算でもあるものの、その分だけ人材が育ちきっていないので次の段階へ移行するのはもう少し先になりそうだ。


 ここで焦って全てを台無しにするよりかは、石橋を叩いてしっかりと問題なく渡りきりたい。


「それにしても、子供はいいものですわね」


 ブレットとの結婚はもう少し先なのだが、やはり婚約者という立場からも二人の子供を意識してしまうのは仕方ないことだと、わたくしは思う。


 ましてや、子供と真一に接していると尚更である。


 しかしながら、わたくしは何かを忘れているような……。


 たまに、何かを忘れているような感覚になるのだが、忘れてしまうという事はその程度のことですし、毎日が忙しくてそれどころではない。


「ああ、そうだな。 元気に校庭を走り回る子供達を見ているとこっちまで元気になってくるな」

「ふふ、そうですわね。 この子達が未来のタリム領を支えていくのだと思うとより一層逞しく思えてきますわ。 託児所がわりの第二校舎も来年には完成致しますし、ますますに賑やかになりましてよ」

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