第45話ちよこれーと
◆
ここは美食家で有名なボルス伯爵家の一室。
その中央に置かれたテーブルの上にはみた事もない食べ物数々が置かれていた。
その中の一つ、全体的に茶色く、実に不味そうな甘味らしい(食べ物かすらも怪しい)食べ物を手に取る。
コレが今タリム領で話題の食べ物の一種であるとは、見ただけではとてもではないが信じられない──
「コレは何だね?」
「こちらの甘味は『ちよこれーと』なる甘味だそうです。」
「ほう、では一口……っ!!? こ、コレはどのようにして作るのだっ!? シェフっ! シェフはおらぬかっ!!」
──そう、思っていた私の考えは、この『ちよこれーと』なる甘味を一口、口に入れた瞬間に覆される。
なんだ、この美味しさはっ!? 今まで食べてきた甘味のどれよりも、いや、全ての食べ物の中でこの『ちよこれーと』なる食べ物が一番美味しいと言っても過言ではないっ!!
何としても我が領でもこれを作ることができれば、我が領地の収益は破格となろう。
いや、そもそも美食家として名を馳せた私の領地にこの『ちよこれーと』が無いと言うのは、私のプライドが許さない。
「はい、お呼びでしょうか? ボルス伯爵様」
「そんな建前はいいからコレを一つ食ってみてくれっ!!」
「は、はぁ。 この黒い物をですか? ボルス伯爵様を疑っているわけでは無いのですが、その食べても大丈夫なのでしょうか?」
「その気持ちは痛いほど分かる。 だが、一口食べてみれば私がなぜ君をここに呼んだのか、その全てがわかるであろう」
「わ、わかりました。 私とボルス伯爵様との仲でございます。 ここで食べないという選択肢はございません」
そして私が呼んだシェフでありこの家の料理長が意を決して黒い塊を口の中に放り込む。
このシェフは私が数カ国放浪の旅をしてようやっと見つけた、この世界で一番料理の腕があると思っているシェフである。
それ故に彼はプロ意識が高く、商売道具でもある舌を守る為に、基本的には得体の知れないものは口にしない主義であるのだが、そんな彼が私を信じて黒い塊『ちよこれーと』を口に運ぶ。
その光景に少しだけ感動してしまうのだが、それよりも気になるのはシェフの反応である。
「ど、どうだ……?」
「…………わかりました……っ」
「お、おおっ!! そうかっ!! 流石私が数年かけて探し求め、スカウトしたシェフなだけはあるっ!!」
「私にはこの『ちよこれーと』なる甘味を作れるだけの技術も知識も何一つ無いことがわかりました……っ!」
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