第30話ここが正念場である

「それで、これ程の大勢の前でこの俺の顔に泥を塗るような真似をしたんだ。 どうこの落とし前をつけるんだ? ブレットとやら」


 そして、なお周囲の空気の変化に気付けていないレオポルト殿下は自分の首を絞める行為であると気付けないままブレットへ脅迫まがいの事を言ながら迫る。


 その表情はいつも澄ましたような表情をしており、あまり自分の感情を表に出さないレオポルト殿下にしては珍しく、澄ました表情をその顔に貼り付けながらも怒りの感情が滲み出ている。


 と、いうかブレットが私を庇い始めてからずっと怒りの感情を抑え切れていない。


「何をおっしゃっているのですか? レオポルト殿下。 むしろ、目の前で婚約者を口説かれている俺の方が顔に泥を塗られている状況なのですが、まさか王族の権力でもって他人の婚約者を奪うから、俺は婚約者であるシャルロットを諦めよ、とでも言うのですか?」


 そしてブレットも、腐っても王族で、まだ王位継承権第一位でるレオポルト殿下に対して怯むどころか逆に攻め返す。


 あぁ、そんな事をわたくしの為に目の前でされては本気で惚れてしまいそうですわ……。


 いいぞ、もっとやれ。


「ぐぬっ……い、言わせておけばっ!? 吐いた唾は飲み込めぬぞっ、ブレットっ!」


 そしてレオポルト殿下は怒りの表情を一瞬にして消すと、今度は愛する女性に向けるような表情をしてわたくしを見つめて来るではないか。


 正直言って寒気がする。


 心の底から嫌っている異性からの好意を寄せた視線といのはかなり気持ちが悪く、到底耐えられるようなものではない。


 今現在、わたくしの全身には鳥肌が凄い事になっているだろう事は、見なくても分かる。


「シャルロットよ、このブレットというストーカーに絡まれて大変であったな。だがしかし、今日からはもう大丈夫である。 この俺がシャルロットを守ってあげるから。そして、今まではおそらく恐怖から本心をなかなか言えなかったのであろう。 俺がシャルロットの事を守ってあげるから遠慮なんかせず君の思っている事を嘘偽りなく今この場で申して欲しい」


 流石レオポルト殿下。 わたくしの予想以上に出来過ぎた流れにわたくしは思わずにやけてしまいそうになるのをグッと堪える。


 ここが正念場である。


 一撃で仕留めて見せましょう。


「ほ、本当にレオポルト殿下は、わたくしが本心を言ってもわたくしを守ってくださるのですか?」


 目に涙を潤ませ、まるで恐怖に怯える痛いけない少女を演じているその時、そんなわたくしを見てブレットが若干引き気味の目でわたくしを見ているではないか。


 確かに見ましたからね、ブレット。


 あとでしっかりと言い訳を聞いてあげましよう。

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