第217話 ブッ潰しに来た
私の故郷は、私の種族でもある白狼族の集落であった。
その集落では強さこそ全てという白狼族の価値観を色濃くしたような集落であり『弱いものは虐げられて当然で文句があるならばより強くなり見返せばいい。 それが出来ないのならば弱い自分が悪い』という腐った価値観が常識として通用する集落であった。
確かに白狼族では強い者が讃えられるのは良くある事なのだが特に私の村は酷すぎると言っても過言ではない。
他の白狼族の集落であっても私の集落とは違い強い者が弱いものを虐げて良いという訳ではないと言えば私の集落がいかに異常であるか分かるだろう。
そんな村で生活していたある日、私は集落の長であるバカ息子に犯されそうになった。
その時は必死に抵抗して何とかして逃げ出す事ができたのだが、その際無我夢中で爪を立てて引っ掻いていた内の一撃がバカ息子の目に引っかかり片目を失明させてしまったのである。
その事を知った集落の長はバカ息子に『集落で一番弱い私を犯す事もできないのかっ!!』と激昂して集落からバカ息子を追い出し、それでも尚怒りが収まらなかった長の怒りの矛先は私に向かったのである。
長曰く『儂が息子を失ったのは弱い癖に無駄な抵抗をしたお前のせいだ』という事らしい。
正直言って意味がわからなかったのだが、もっと意味がわからなかったのが両親が長側に立った事である。
そして、私の知らぬまま長の怒りを鎮める為に私を奴隷に落として、それで得た利益を長へ治めるという事で話が纏まっていた。 当然そこに私の意見なんか反映されてすらない。
そんな村へと私は今帰郷しようと馬車に乗っていた。
少し前までの私だったら怖くて嫌な思い出しかなく、自分が惨めになるだけだから帰郷の事を思い出そうとすらしようとしなかったのだが、今ではブラックローズの先輩達に優しく鍛えてもらった結果、恐怖や惨めといった感情は怒りへと変化していった。
皮肉なもので私自身が強くなったお陰で心に余裕ができて見返してやろうという思いが生まれてきたのである。
そして、私は昂る感情を抑えながら帰郷することができた。
「おい、あれっ」
「何だよ……って、あれって……いやしかし、ラフィーは奴隷として売り飛ばされたはずじゃ……」
そんな会話があちこちで聞こえてくる。
あぁ良かった。 この感じではみんな私、ラフィー・バートンの事を覚えているようだ。
そして私は集落の中心にある闘技場、その真ん中まで来ると全力で遠吠えをする。
その遠吠えは自分でも吃驚するほどの声量であり、空気が震えて近くにある建物がカタカタと小刻みに揺れる程であった。
そして、白狼族の集落、その中央にある闘技場の真ん中で遠吠えするという事は『ここの集落をブッ潰しに来た』という合図でもある。
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