第三章

第183話 金色に輝く二本のドリル




 別に、白馬の王子様が本当にいるとは思ってはいない。

 

 でも、今このどうしようもない状況を一発の魔法で打破できるような男性がいて、私をこの状況から助け出してくれる。


 そんな夢物語ぐらい頭の中だけは妄想してもいいではないか。


 そのくらいの事もダメだと言われると私は一ヶ月もしないで気が狂ってしまうだろう。


 私の親も何であんなゴミみたいな奴とお見合いをさせたのか意味がわからない。


 私の親曰く、親同士が昔仲が良くて子供が異性同士なら結婚を、男性同士ならば良きライバルとして、女性同士ならば同じ男性に嫁がせようと約束をしていたようである。


 意味がわからない。


 そもそも産まれて来た子供は両方女性だったのだが現時点でその女性と私は今まで殆ど関わり合いがないと言っても良い間柄なのである。


 そりゃ昔は親同士の付き合いで何度か会ったことはあるのだが、そもそも私はあの人と馬が合わないと出会った初日に思った程である。


 初めて言われた言葉は「本ばっかり読んでなんになるのかしら。 それで庶民を守れるとでも思っているのならば滑稽ね」であり、今でも鮮明に覚えている程に腹が立った言葉でもある。


 別に彼女の思想や価値観が間違っているとは思わないし、とても素晴らしい考え方だとは思う。


 しかしながら、私はそもそも運動は苦手で魔力も庶民よりは多いくらいで、貴族の中では少ない方なのだ。


 だからこそ知識を使って政を通して庶民の暮らしを良くできればと思っていた私は形は違えど同じ志を持つ同士だと思っていた彼女にそんな事を言われてかなり傷ついて今でも覚えているほどには根に持っている。


 しかしながら幸運だったのはそんな彼女が今まで婚約者を作らなかった事である。


 それは、言い換えると私も婚約者を作る必要がなく、知識を付けることに日々集中できるという事でもあった。


 それが何故か急に彼女が婚約すると言い始めたのである。

 

 びっくりすると共に、ついにこの日が来たかと思った。


 彼女の選ぶ殿方である。


 彼女の事は嫌いでも、彼女の選ぶ男性は腐ってもまともな男性であるというある種の信頼はしていたのに……。


「はぁ……鬱になりそうです……」

「それは私の方ですわっ!! ドラゴンはそのまま帝城へ向かうと思って急いで馬車を飛ばしたというのに、結局ドラゴンは何故かこの学園の闘技場を壊して去って行きますし、誰が闘技場を壊す為だけにドラゴンが三頭も飛んでくると予想できるんですのよっ!! こんなの詐欺ですわっ!!」


 そして私の愚痴に被せてくるように先日のドラゴン襲撃の件を愚痴っているのは私の数少ない友人で、代々魔術師の家系でもあるアーバン家の令嬢、エミリーである。


 今日も彼女は頭に金色こんじきに輝く二本のドリルを装着して、振り回しているのだが、これを本人に言うとこのドリル髪型がいかに素晴らしいかという話を小一時間は語り始めるので今は思うだけにとどめている。

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