第184話 その事は一旦置いておく

「それにしても貴女も災難ですわね。 親の決めた条件で婚約するというのは良くある内容だけれども、その相手があのカイザルともなれば頭を抱えたくなる気持ちは痛いほど分かりましてよ。 まさかあのカレンドールさんがカイザルを婚約者に選ぶだなんて、わたくしでも思いもよらなかったですもの。 本当、何であんなクズを人一倍正義感が強いカレンドールさんが婚約者に選んだのか……しかもカレンドールさんから猛烈アタックの末に婚約を果たしたという噂も、普段のデレデレした様子から見て真実のようですし。 あのいつも仏頂面で武こそが全てというような雰囲気を出していたカレンドールさんがあんなに変わってしまうだなんて、誰が予想できますのよ」

「ほ、本当にそうなんですよぅ。 私自身はカレンドールさんは苦手なんですけどその点に関してはある意味では信頼していたのに、どうしてこうなったのかと……うぅっ」


 当初こそカイザルがカレンドールさんを裏で脅しているのだろうと信じたかったのだけれども、エミリーの言う通り普段のカレンドールさんの態度を見るからにむしろカイザルの方が裏でカレンドールさんに脅されて婚約したと言われた方がしっくりくる程である。


 もしカレンドールさんがカイザルによって無理やり婚約をさせられているのだとすればまだどうにかなったのかもしれないが、カレンドールさん自らの意思でカイザルへと婚約を申し出ているのだとすれば、もうどうしようもないではないか。


 そしてクロード殿下が推測しているようにもし何かしらの方法でカイザルがカレンドールさんを洗脳しているのではと思ったりもしたのだが、ではなぜカイザルが地味に面倒臭そうな表情をしているのか辻褄が合わなくなってしまう。


 というか未だにカイザルがブリジットさんを洗脳していると疑わないクロード殿下の頭は大丈夫なのだろうかと心配になってくるが、その事は一旦置いておく。


 なので、どう足掻こうがこの婚約はカレンドールさんから半ば強引に申し出たという事なのだろう。


 私の予想ではクヴィスト家の不祥事によりごたついている時に親の権力や財力を使って半ば強引にカイザルと婚約を結んだのであろう。


 あのカレンドールさんがそんな卑怯な手を使うはずがないと当初は思ったのだが、むしろカレンドールさんだからこそ法律に反していなければ後は家同士の力の比べ合いであり、弱い方が悪いという考えで強引に婚約を迫ったのだと思えばしっくり来る。


 そういう人間だからこそ、本ばかり読んでいる私に向かってあんな言葉を吐けたのだろうし、その価値観があるからこそ普段から武術や魔術を鍛えているのだろう。


「全く、元気を出しなさいな。 何かあれば愚痴くらいはわたくしが聞いてげますから」

「そこはカッコ良く助けてあげるくらい言ってくださいよぅ」

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