第148話隣国へ逃げる算段

 ドラゴンなど一体現れるだけで天災級の厄災となる可能性があるのだ。


 それが小型であろうが人間に太刀打ちできる相手ではない為、ドラゴンがもし街や村を襲った場合基本的にはドラゴンが飽きるまで耐え凌ぐか、宮廷魔術師や帝国騎士の一小隊または高ランカーの冒険者グループによってなんとか退ける事ができるレベルである。


 その為、ドラゴンを討伐した小隊や冒険者グループにはドラゴンスレイヤーという称号と名誉が一緒について来る程である。


 そんな、一匹でも大事であり、殆ど人里に姿を現さないドラゴンが三体も、それに三体とも帝都へ向かっているなど普通に考えてあり得ないだろう。


 幻か何かでも見てしまったか、別の何かをドラゴンと見間違えたと言われた方がまだ信じられるくらいである。


 そもそも前回ドラゴンが人里まで来たのが六十年前に一度帝国の外れにある農村を襲ったくらいで、以降その姿すら見せていない。


 そのドラゴンが三体同時に、帝国帝都までその姿を現す事がどれだけ異常で、どれ程脅威であるか。


 もしこの下っ端風情が言っている事が本当であれば、下手をすれば帝都そのものが無くなりかねない程の事が起きているという事である。


 そして俺は半信半疑ながらも窓まで歩き、ガラスが割れた窓から身体を半分だけ外に出して空を見上げる。


「噓……だろ……っ!?」


 するとそこには漆黒の巨躯のドラゴンに純白の巨躯のドラゴン、そしてそれらより一回り小さい深紅の身体をもつドラゴンが羽ばたきながら一直線で帝都へ向かっている姿がそこにあった。


 その三体の内、一回り小さいドラゴンでさえ、祖父から聞いた昔話に出て来るドラゴンより明らかに大きく、最早人間の手に負ない個体である事が窺えてしまう。


 祖父の昔話が本当であれば恐らくあの深紅のドラゴン一体だけであっても、抵抗するとなれば一小隊ではなく、一国、いや他国も巻き込んでどうにかなるレベルではなかろうか。


 そう判断した俺は即座にこの場から去り、隣国へ逃げる算段をつける。


「ズらかるぞ」


 今帝国にいるのは余りにも危険する。


 もしあの三体が帝国で暴れた場合は、落ち着いた頃に略奪などをしに戻ってくればいいし、何事もなくただ通り過ぎるだけならばそれに越したことはない。


 そう判断した俺は、自身の闇ギルドメンバーにこの場を離れる旨を伝える。


 命あっての物種である。


 勇敢と無謀をはき違えてはいけない。


 メリットの大きさよりもデメリットの大きさを考えて行動しなければ、その内死というデメリットがやってくるのだから。


 そう思いながら、俺は帝都に向かって小さくなっていくドラゴンを目に焼き付けた後、廃村から隣国へと逃げるのであった。

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