第149話いつでも孕む覚悟はできています



 

 クロード殿下から無駄に毎日絡まれるという面倒臭さはあるものの、それ以外はいたって快適そのもの。


 その理由に『カイザルに関わったら無理矢理洗脳された上で奴隷にされる』という噂が広まっているというのが大きいだろう。


 そのお陰で俺に突っかかってくる奴は一人しかいない。


 代わりにゴミか何か見るような目線を女性陣から向けられ、男性陣からは嫉妬と苛立ち混じりの視線を向けられるくらいである。


 前世の記憶が戻る前も公爵家のドラ息子で目線が合うと何されるかわかったものではないと避けられていたので、向けられる視線に込められた感情が違うだけで今とそう大して変わらない。


 少しばかりクロードが面倒臭いくらいである。


 そう考えれば俺にもようやっと日常が戻って来たと思っても良いだろう。


 三日後に迫ったクロード殿下との決闘も、前回同様に適当にサレンダーすれば良い訳だし、ぶっちゃけ面倒臭いし、皇族相手に決闘な、何かあった時の尻拭いをするのは俺であるのだから、そんな面倒事に巻き込まれるくらいならば勝つ事よりも負ける方が良いに決まっている。


 やはり、ここ最近は何だかんだで色々あり過ぎて、この、俺にとっては日常であったこの空間が平穏だと思える程には今までが酷過ぎたという事であろう。


 奴隷もなぜか増えたし……。


 そもそも何でブリジットやカレンドールは自ら志願して俺の奴隷になりたいのか、本当にこればっかりは理解できないし、したくもない。


「どうしましたか? カイザル様。 私の顔に何かついていたでしょうか? そ、それとも私に見惚れていたという事でしょうかっ!! でしたら今晩は期待しても良いという事でしょうかっ!? お布団は私の体温で温めておきますねっ!!」


 放課後やる事もないのでそのまま馬車に乗り込み、俺の隣に座っているブリジットの顔をいつの間にか見つめていたらしく、その事を嬉しそうにブリジットに指摘されてしまう。


 因みにカレンドールは、今日は用事があるとかで一緒には帰れないとの事で、今この馬車の中はブリジットと二人っきりである。


「いや、世の中には不思議な生き物もいたもんだな、と思っていただけだ。 気にするな」

「? そうですか。 あ、別に私はいつでも孕む覚悟はできていますからっ!」

「あ、はい。 そうですか」

「そうですっ!!」


 そして最近分かった事なのだが、ブリジット(奴隷たち全般に言える事なのだが)にいちいち反応していたら俺の喉が持たないのでスルーするに限る。


 なのでどこから『孕む』という話題が出て来たのかも突っ込まない。


 そんな事を思っているとは知らないであろうブリジットは、まるで犬のようにキラッキラとした表情で俺を見つめて来る。


 その姿は確かに可愛いは可愛いのだがこれは異性に対して抱く感情ではなくて最早愛玩動物に抱く類の感情なんだよなぁ……。


 それを言ってしまうとリードを持ってきて「さぁっ、散歩に行きましょうっ!!」とか言いかねないから絶対に言わないのだが。


 とりあえず言える事は奴隷達の倫理観というか常識というか思考回路というかなんというか、そこらへんは間違いなく一般的思考とかけ離れており、俺の方が間違いなく常識的かつ一般的な思考であるはずなのだが、たまに俺の方が間違っているような錯覚になる時があるので、今まで以上に気を付けようと思う。


 だからブリジット、期待に満ちた目でリードを握りしめながら俺の方を見るのは即刻止めてもらいたいと思いながらも気付かない振りをして逃げ切るのであった。

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