第141話マップ

 今までは闇の家業は闇ギルドやその他闇の組織はあれど大体同じような深さに潜って活動をしていると思っていた。


 しかしながらこの秘密結社ブラック・ローズという組織を俺が今まで一度も耳にした事がないという事、件の黒い仮面の男性の存在すら知らなかったという事、そして今目の前にいるメイド服を着ている奴隷程の実力者を育て上げる事が出来るくらいにその組織は存在していたという事。


 それらから俺が見ていた裏の世界よりさらに闇に深い所で暗躍している組織があるという事が分かるという事である。


 そう導き出された答えはあまりにも恐ろしい。


 奴隷一人をここまでさだてあげるのに一年や二年では育たないだろう。


 そして、ここまで育て上げる事のできるノウハウを作り出すのに十年や二十年では聞かないだろう。


 にも拘らず今まで俺ですらその組織の名前すら知らなかたにも拘らず、黒い仮面が俺に接触してくるだけではなく、こうして奴隷の口からではあるもののこの組織の名前が秘密結社ブラック・ローズという事までわかってしまうその意味。


 それは、俺の未来は死しかないという事である。


 でなければそれ程長い期間もの間、ここまでの匿名性を維持して活動できるわけがない。


 ただ分かる事は、少しでも情報を握った人間は殺すか、目の前のカレンドールのように奴隷に落として秘密結社ブラック・ローズに引き込むかという手段を今までして来たのであろう。


 隠す素振りもせず、むしろ見せつけるかの如く胸元を開けて、胸に印字された奴隷紋が見えるカレンドールから見ても分かる。


 その事こそが、どれだけ位の高い貴族であろうが匿名性の為ならば容赦なく奴隷に落とすという、まさに証明であろう。


 そして、俺は初めから殺す事を想定して動いていた。


 だからこそ黒い仮面の男が俺の前に現れたりメイド服を着た奴隷が組織名を名乗ったりしていたのだ。


 舐められたものである。


 確かに俺は片腕を失い、召喚魔術陣が印された指輪まで奪われている。


 しかしながらこれでも俺は闇ギルドのマスターとして今まで生き抜いてきたのである。


 指輪はなく、片腕もない俺であるのだけれども、逃げるだけに特化して動けばここから逃げ切る自信はある。


 かなり厳しい相手であるのは間違い無いのだろうが、やってできない事はないだろう。


「ではカレンドールさんには『マップ』という固有スキルの使い方をこれからお教えしますね」


 そんな声を背後から聞こえて来るのだが、俺はその固有スキルがどんなものかも考える事もせず、ただただ逃げる事だけを考えて走り出すのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る