第134話 表側から正攻法で攻めあるのみ

「分かったっ! 分かったからっ! お前達の分も作ってもらうように我からお願いしてみよう」

「言質はいただきましたわよ? あなた」

「絶対ですからねっ!!」


 そう言って何とか妻と娘を宥める事ができたのだが、そもそも次はいつ召喚してくれるのかも分からない上にまだ功績も何もない我が主に向かって物を寄越せなど、今からその場面を想像するだけでもストレスで鱗が剥げ落ちてしまいそうである。


 あぁ、どうしたものか。





 お兄様から聞き出したカイザル様の情報というのは私が想像していたようなものではなく、ただカイザル様だけが罰則から免れた不自然さをただ怪しんでいただけに過ぎなかった。


 であれば、私がやる事はカイザル様を怪しまれないように誘導する事と、私の両親にカイザル様の評価を一新させ、更に恩義を感じさせる事である。


「そういう事ですよね、カイザル様」


 そして私は誰もいない部屋で一人つぶやく。


 そもそも考えてみればカイザル様が私如き小娘一人を助ける為だけに闇ギルドと敵対するなどというリスクが高い行為をするのは普通に考えれば不自然なのだ。


 そもそも闇ギルドのマスターであるベルムードが持っている魔術アイテムの中で有名なのものは召喚の指輪であり、あれは良くてコボルトを一体召喚できれば良いという魔術アイテムである。


 中級冒険者相手であれば数の利で優位に立て、上級冒険者相手でも一瞬の隙を作る事ができるという非常に優れたアイテムである事は間違い無いのだが、それはあくまでも一般的な解釈でありカイザル様ならばむしろコボルトを召喚する必要性が見当たらない上に、召喚する労力を別の事に費やした方がよっぽど良さそうである。


 と、なれば残る理由はあと一つ。


「待っててくださいね、カイザル様。 両親を説得して必ずや私もカイザル様の物になりに行きますので」


 そう、どこぞのブリジットは実家家族もろともカイザル様に貢いでいるのだが、所詮それは裏側の話である。


 であれば私は表側から正攻法で攻めあるのみ。





「と、言うわけで我々ルイス家はカイザル様には大変感謝しているのですぞ。 このまま長男であるバカ息子であるドミニクが闇企業と繋がるだけではなく薬にまで手を出していた事に気づいていなかった場合次男がおらず跡取りが兄だけであるルイス家は、最悪ルイス家そのものが無くなりかねない事になっておりましたからな」


 そう言いながら朝っぱらからアポなしで娘であるカレンドールと一緒に訪問してきた現ルイス家当主グレイスは「ガハハハハッ!!」と豪快に笑う。


 豪快過ぎて窓ガラスが揺れているのは気のせいだろうか?


「しかもそれだけではなく治療薬まで、それも無償で譲って頂いていたと娘から聞いたときはカイザル様に感謝の言葉を今すぐにでも伝えたくて、失礼なのは承知でこうして馳せ参じた次第ですぞっ!! しかもわしの娘はあの時のカイザル様の勇姿を見てカイザル様に惚れたと申すではないかっ! この歳まで婚約者を作ろうとせず、どうしたものかと思っておりましたがこれで安泰ですなっ!! これで今回の恩を全て返せたとは思ってはおりませぬが、我が娘をカイザル様に嫁がせようと思っており、 親バカ目線ではあるがカレンドールは器量よし、頭もキレ、料理も上手く、魔術センスも抜群である、どこに出しても、それこそ王族に出しても恥ずかしくない娘だと思っておりますぞ」

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