第127話 私が求めていた正義
「お前……誰の依頼でここに来た?」
「……どういう意味だ?」
そして闇ギルドのマスター、ベルムードは先程の一撃、腐っても貴族であり薬の力を借りているとしても氷の華を同時に五個も咲かせる事ができるお兄様をたった一度の魔術、それも無詠唱という馬鹿げた方法で行使した魔術により無力化した光景を見て敵わないと思ったのか黒衣の男性へ依頼主を聞き始めるのだが、黒衣の男性はどうしてそれを聞かれるのかがいまいち理解していないようである。
「どういう意味も何も、倍でどうだ?」
「……倍?」
「そうだ。 何なら三倍、いや四倍だそう?」
「さっきから一体何の話をしているんだ? お前は」
「物分かりの悪い奴だな。 お前を俺に仕向けた奴から貰った依頼料の四倍を出してやるから俺の仲間になれって言ってんだよ。 そしてお前を依頼して俺に仕向けた奴を殺して来い。 いいな?」
そしてベルムードは黒衣の男性に元の依頼料の四倍を出すと言い、初めに依頼した人物を殺して来いという依頼をするのだが、それでも黒衣の男性は理解できないといったような表情をするのみである。
「いや、だから意味がわからない。 どういう思考回路をすればそういう話になるんだよ?」
「あ? あんまり俺を怒らせるな──」
「お前が怒ればどうなんの?」
「いっ!? あっ、お、俺のがっ!?」
「右腕一本くらいで大袈裟なんだよ。 それでも闇ギルドのマスターかよ。」
黒衣の男性がそう言ったところで私は初めてベルムードの右腕が切り落とされている事に気づく。
黒衣の男性とベルムードとは四メートル程離れているにもかかわらず一体どうやて切り落としたのか、全く分からなかった。
レベルがあまりにも違いすぎる。
「そもそも俺は初めに言ったよな? お前が持っているアイテムを奪う為にここに来たと。 なんで依頼されて前を殺しに来た事になってんだよ。 それとも何か? 人の物は奪うが自分の物は奪われるとは少しも思っていなかったとかか? そんな甘い話があるかよ。 奪うなら奪われる事も想定しないとダメだろう、お前。 ほんと、そんなんで良く闇ギルドのマスターなんかやってこれたな。 闇ギルドは人の恨みを買う家業だってのに危機管理ができて無さすぎるだろう流石に」
そして黒衣の男性はまるで出来の悪い生徒にダメ出しをするような口調でベルムードへ語りかけながら歩き始める。
このシーンだけ見て、闇ギルドのマスターが腕を切り落とされ恐怖の表情で後退りをしている方だと言われても信じる人はいないだろう。
むしろ、どちらかと言われれば黒衣の男性の方が闇ギルドのマスターだとその多くが思ってしまうのでは? と思ってしまえる程に二人の表情や醸し出す雰囲気は対照的であった。
そして黒衣の男性はギルドマスターの近くまで歩くと、そのまま切り落とした腕を拾って、右手の指にはめられている指輪を一つ抜き取ると、そのまま(恐らくストレージだろう)異空間へと仕舞う。
「じゃぁ、欲しいものは手に入ったし俺は帰るからな。 あそこにいるベルムードをどうするかはお前に任せるわ。 右腕が切り落とされた事により身体に刻んだ魔術陣は行使できないし、何よりも右手につけてた指輪が無ければこいつはただの雑魚だから煮るなり焼くなり好きなように」
そして黒衣の男性はお兄様の氷を消し去りながら私の元までやってくると、優しく私の頭を撫でながらそんな事を意言い残して去っていく。
まさに、これぞ私が求めていた正義がそこにあった。
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