第126話 やはり無詠唱
意味がわからない。
そもそも闇ギルドや私の事を本気で殺そうとしに来たお兄様の事、間違いなく死んでいたであろう私。
ただでさえそれらにより私の頭は処理しきれず、いや、処理する事も諦め、生き残ることも諦め何もかも捨てていたのに、私は目の前に私を庇うように立っている黒い仮面を被っている黒衣の男性によって助けられていた。
どこから処理していいか分かるという人がいれば教えて欲しい。
ただ、分かることは、私はまだ生きているという事と、黒衣の男性をどこかで見たことがあるという事である。
初めて見るはずなのに、一体どこで見たというのだろうか。
首まで出かかっているのに、そこから分厚いモヤがかかったように思い出せそうで思い出せない。
「大丈夫……みたいだな」
「え、ええ。 それよりもあなたは……」
「俺のことはどうでも良い。 ただのクズ野郎で、今日はただ単に闇ギルドマスターであるベルムードが持っているアイテムを強奪しに来た盗賊ぐらいに思ってくれ」
そういうと黒衣の男性は私をお姫様抱っこの要領で横抱きで担ぐと、部屋の端に優しく座らしてくれる。
「おい、テメェー……その名前どこで聞いた?」
「あ? どうせ捨てた名前なんだろう? だったらどこでも良いじゃないか」
「ハッ! それもそうだなっ」
そして黒衣の男性がそう答えると闇ギルドマスターであるベルムードがクツクツと笑ったかと思うと一気に殺気を飛ばし、真顔になる。
「やれ」
「かしこまりました」
ベルムードがそう一言言うとお兄様がベルムードの用心棒と言わんばかりに黒衣の男性の前にでる。
いや、実際にお兄様はベルムードの用心棒でもあるのだろう。
そのお兄様の姿を見て、私の中のあの正義感に溢れて優しかったお兄様はもうどこにもいないのだと、否が応でも分からされる。
「き、気をつけて下さいっ! お兄様は──」
「妹はどっちの味方なんだい? まさか兄である俺ではなくどこの馬の骨かも分からないこの黒ずくめの男だとは、言わないよね?」
そして私は黒衣の男性にお兄様の弱点を伝えようとするのだが、殺気の籠ったお兄様の言葉で止められてしまう。
お兄様だからとかではなく、ただ純粋にこれ以上言ってしまったら間違いなく殺されるという恐怖心により。
私は、何と情けない人間なのだろう。
私のちっぽけな保身のせいで恐らく黒衣の男性は私のお兄様に殺されてしまう。
「煩い黙れ。 所詮モブキャラの雑魚キャラの癖にメインキャラクターかのようにしゃしゃり出て来てんじゃねぇよ」
「おまえ──」
そして黒衣の男性は無詠唱で氷の剣を作ると、その氷のをお兄様に向かって振り下ろす。
「凍れば流石に静かになるだろう。 終わるまでこのまま黙ってろ」
たったそれだけで私のお兄様は氷漬けにされてしまう。
しかもやはり無詠唱だ。
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