第121話 私は決心する。

 しかし、お兄様はそれがさも当然であるかのように私に説明をしだす。


 そのお兄様の内容は『小さな悪をより大きな悪で抑え込み、悪の中での秩序を作る事により表の世界の秩序も保たれる』というような内容であった。


 お兄様の言わんとする事は分からないでもないのだがだからといってこれを許して良いわけがないし、それは私達貴族が闇ギルドに弱みを握られ、逆らえられなくなるという事ではないか。


 そんなの、私が前まで見下していたカイザルよりもクズな考え方ではないか。


 貴族として産まれたからには貴族としての義務を果たすべきであるという私の考えから最も離れた人間がカイザルであると思っていた。


 しかしながらそのカイザルは私以上に貴族として裏で行動しており、逆にお兄様が裏では貴族として風上にも置けないようなクズな行動をしていたという事に、私は何を信じれば良いのかが分からなくなる。


「で、ですがお兄様っ! その薬は確実にお兄様の身体を蝕んでいますっ! 今すぐにでも止めるべきですっ!」


 それでも、お兄様が貴族としてやってはいけない事をしていると分かってしまったからと言って、衛兵に突き出す事はできず、そしてお父様に告げ口をして切り離すことも出来ず、こうしてまだ改心する事を望んでしまう。


 カイザルに対しては、見方によっては暴力で押さえ込もうとしていたのにも関わらず、お兄様にはこれだ。


 そんな自分が堪らなく惨めに感じてくる。


「今すぐにでも止めるべきだって? そんな事が出来ていればとっくの昔に止めているんだよっ!! 分かった風な口を聞いてくるなよ小娘がっ!! だったらお前の才能を少しでも俺にくれよっ!! なぁっ!?」

「ご、御免なさい……お兄様」

「お、俺の方こそすまん。 ごめんな、こんな兄で」


 そういうお兄様はどこか諦めたような表情をしており、その表情を見て私は決心をするのであった。



 ◆



 お兄様が闇ギルドと繋がっていると知って私は、バレないようにお兄様に【探索】の魔術を付与していた。


 そのおかげで闇ギルドの潜伏場所もある程度特定できている。


 恐らくお兄様は薬のせいで闇ギルドとの関係を切りたくても切れない身体になっているのだろう。


 だからそんな自分を正当化する為に、あんな思考になったのだと私は考える。


 そもそも私の知る昔のお兄様は私が思い描くような理想の貴族そのものであり、決して秩序の為に巨悪は必要だなどという人物ではなかった。


 だったら、私がお兄様を助けるしかない。


「へぇ、確かカレンドールさまだったかな? やけに下が煩いと思っていたんだがそういう事か。 こんな所に一人で訪れてどうしたんだ?」


 私たちルイス家が収める領地の端にあるスラム街、その中にある酒場の三階にある一室。


 そこに闇ギルドのギルドマスターが椅子に座って私を待ち受けていた。

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