第120話 きっとそうに違いない
そしてブリジットさんは私が聞いた内容など最早頭の中から消え去ってしまったのか、カイザルの事についてだけを話し始めるのだが、私はブリジットさんが初めの方に一度だけ言った内容をしっかりと聞いていた。
ブリジットさんの話が本当であればお兄様が飲んでいる薬は依存性が極めて高く、そして身体を蝕む薬であるという事である。
「そ、そんな……」
そして私は、ブリジットさんがカイザルの事で頭がいっぱいになり私の事が見えなくなっているように、お兄様の事で頭がいっぱいになるのであった。
◆
「お兄様っ! 薬はもうやめてくださいっ!」
あれから私はいてもたってもいられず学園から家に帰った瞬間お兄様へ薬を止めるように懇願する。
妹である私の言葉であれば、あの心優しく正義感の強いお兄様ならば分かってくれるかもしれない。
分かってくれないまでも話は聞いてくれるかもしれない。
そう思い私は叫ぶ
「こないだ俺が言っていた事がまだ分からないのか? 俺にはもうこの薬しかないんだよ」
「し、しかしその薬の購入代金は闇ギルドへ流れているのですよっ!? それがどういう事か分からないお兄様ではないでしょうっ!? こんな事、お父様が知れば勘当物ですよっ! むしろ勘当で終わればまだ良い方ですっ!!」
お兄様は私の理想の貴族であった。
カイザルのように、環境があるのに己を磨こうともせず、権力があるにも関わらずその権力を民のために行使するのではなく己の欲望の為に使うようなクズとは違い、常に自らの能力を高める為に鍛錬を欠かさず、貴族として民のために権力を使い、平和な領地を目指す、そんなお兄様が、私の自慢で、理想の貴族であった。
しかしながら今はカイザルがまるで理想の貴族のような振る舞いをしており、お兄様は闇ギルドへ金を流し平和を脅かすような事をしてるではないか。
そして、薬を闇ギルドから買っているという事は、お兄様はその闇ギルドを裁くつもりなど毛頭無いという事の裏返しでもある。
我が先祖が代々平和を維持してきたこの領地で闇ギルドを匿う。
私の知るお兄様は、そんな人間ではないはず。
もしかすれば闇ギルドの連中に脅されて、卑怯な手段なども使われて逆らえないのかも知れない。
きっとそうに違いない。
「カレンドール……何を馬鹿な事を言っているんだ? 逆だよ逆。 闇ギルドがある事で俺たちの領地は平和なんだよ。 何でそんな簡単な事が分からないんだ? そして、そんな闇ギルドに金銭的支援をするのも当たり前であろう?」
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