第112話 尊厳
そう言いながらガレットは私に自身の身体を自慢するように見せつけ始める。
その身体は、彼女が言うにはツノも、翼も、両目も、火炎袋まで無い状態だったのだが、その状態からカイザルが元の通りにもどしたと言うではないか。
そんな奇跡あるはずがない。
そんなものができる奴は最早人間ではなく神かそれに近い存在か何かではないか。
我々が出来ることいえばせいぜい回復魔術系で傷を治すくらいで失った部位まで治すことができる者など聞いた事が無い。
「僕はね、奴隷として初めに売られた場所で火炎袋まで奪われて、回復魔術で傷口は治してもらったけれどもドラゴノイドとしての尊厳を奪われてしまったら最早生きて行く意味が分かっらなくなったんだよ。 君にこの僕の気持ちが分かるかい? ドラゴノイドとして生きることも、ヒューマンとして生きる事もできない僕のこの気持ちがっ! しかもそれは、僕が奴隷として売られた理由が『ドラゴノイドの女性』として売られたのではなく『ドラゴノイドの素材』として売られたという事でもあるのだよ。 ドラゴノイドとしての尊厳を全て奪われて雑に回復魔術をかけられ再度奴隷商人に売られた時の僕の気持ちがヒューマンの君に分かるかいっ!?」
そう語るガレットから、彼女がいかに壮絶な人生を送ってきたのか、そして心の奥底ではヒューマンという種族を嫌悪している事が伝わってくる。
「しかし、それでも欠損した身体の部位までも復元させるなど、人間業でなないわ。 きっと何かしらの種があるはずよ。 そしてそれはカイザルの力ではない」
「君が僕の話を信じれない気持ちはわかるよ。 実際に僕自身だってたまに今見ているのは夢なんじゃないかって思えるほどの奇跡でもあるし、何より経験した事ないくらい幸せな暮らしができているんだ。 でもこれは現実で、だからこそ僕は一生をかけてご主人様に忠誠を誓うと決めたんだ。 これは僕が奴隷だとか奴隷じゃないとかは関係ない」
あり得ない。
ガレットの話を聞けば聞くほど私の中のカイザルとの乖離が激しく、余計に信じることが出来なくなる。
「そもそも、あなたは知らないかもしれないけれども婚約者に対して裏で賊を使って襲わせようとしていたんですよ? そんなクズが──」
「あのそれ良くこの学園に潜んでいると耳に入ってくるのだが、そもそも元婚約者である女性は最終的には襲われなかったんだよな?
「それがどうした? 襲うように仕向けたのは事実ではないか?」
「それ、僕のご主人様なら最終的には元婚約者は襲われずに助かるという事がわかっていたのではないか? ただ単に僕のご主人様がクズだというレッテルを貼られるための工作にしか僕は思えないね」
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