第111話 普通のドラゴノイド
「それで、君かい? 無謀にも僕のご主人様に喧嘩を売った馬鹿な女という奴は?」
そしてガレットというドラゴノイドは私の前まで来ると開口一番そんな事を言うではないか。
それはまるで私ではカイザルには勝てないし、勝負を挑む事すら有り得ないと言われているようで、いや、実際に私は目の前のドラゴノイドからそう言われているのであろう。
確かに私はブリジットさんに対して勝負にすらならない程の力量の差を見せつけられ、まったく歯が立たなかったのだが、だからと言ってカイザルという屑に勝てないというのはまた別の話であろう。
「ふーん? 君はどうやら僕やブリジットには勝てないかもしれないけど、僕のご主人様には勝てるとでも思っているようだね」
「そ、それはそうでしょう? カイザルなど剣術もろくに扱えない上に魔術もからっきし。 そんな相手に負ける事の方が難しいのではなくて?」
「成る程……どうやら君は色々と僕のご主人様について勘違いをしているようだ」
そしてガレットがそう言うと、次の瞬間何かに閃いたような表情をする。
「そうだっ! どうせ君は一度ブリジットにコテンパンにされているのだからもう一度コテンパンにされるというのも芸が無いっ! だったら僕の時間はいかにご主人様は凄いのかを語り、その上で最後に潰そうっ!」
「巫山戯ないでちょうだい。 真面目に出来ないのなら……っ!?」
そのガレットの態度に異議を言おうとするのだが、またしてもブリジットの時と同様に私の首元には木刀の切先が突きつけられていた。
「それは僕と同じレベルになってから言うものだよ? 君は羽虫一匹相手に全力で戦えとでも言うのかい? それこそ馬鹿らしい。 踏み潰して終わりなのに。 まぁ、それは良いだろう。 小さきものには相手の大きさや自分自身の小ささが分からないのだから仕方がないだろう」
そして、ガレットは語り出すのだが、私ではどう足掻いても勝てないのだと思い知らされては反撃する気持ちすら、最早沸き上がって来ない。
「では、まず初めに僕のこの身体を見てどう思う?」
「……普通のドラゴノイドの身体では?」
「そう、普通のドラゴノイドの身体なんだ。 角と羽が一対生えていて、目も両目あり、火炎袋もあるから炎を吐く事だってできる、至って普通のドラゴノイドの女性。 それが今の僕だ。 けれどもご主人様に出会う前の僕はヒューマンによって角は折られ、羽はもがれ、両目は抉り取られ、火炎袋は生きたまま胸を割かれて取り出され、ドラゴノイドとしての尊厳を全て奪われた後だったんだよ」
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