第103話一つの仮説

「しかしこれは貴方の力ではなく、ブリジットさんの力ですよね? 他人の力で勝てたとしても貴方は恥ずかしくないのですか?」

「恥ずかしくないね。 そして、もしこれが模擬戦ではなくて実戦の場合死ぬのはカレンドールさんだ。 俺ではない」


 そして俺がそう言うと、カレンドールさんは悔しそうに表情を歪める。


 気持ちでは納得できないのだが、実戦ならば死んでいたのは自分であると言うのは理解できたのだろう。


 それでも、まだカレンドールさんの目は諦めておらず、ギラギラと獲物を狙う肉食獣のような目をしているのが見える。


「まったく、その殺気くらい隠してみてはどうだ? それではまだ何かしら手札、もしくはこの状況から覆すことができる手段があることが丸わかりだぞ」

「貴方こそ、そう上から目線で偉そうに講釈をたれていられれるのも今の内だとおもうのだけれども?。 そもそもブリジットさんに私の相手ができるとでも思っているのかしら? 一応少し前の試験では私が学園一位であり、ブリジットさんは確か十位だったはず。 去年のランキングでは五位であったブリジットさんもこんなクズに入れ込むから弱くなってしまったのでしょう。 順位がその人の強さと必ずしも直結しているとは言わないけれども、それでも一位から九位の一桁台と、例え十位といえども二桁では、そこには見えない壁があるのも確かよ」


 そして俺がその言葉に言い返すよりも先にブリジットが口を開く。


「では、試してみますか? 私、今すっごく怒っているんですよ。 ご主人様を馬鹿にされ、見下され、今すぐにでも殺してしまいたいと思える程には」


 ブリジットのやつマジでガチギレしているのが俺にも分かるくらい強い殺気が伝わってくるので一旦落ち着かせた方が良いだろう。


 万が一殺してしまいましたじゃ取り返しがつかないしな。


「まぁ待て、ブリジット」

「はいっ! いくらでも待ちますッ!!」


 何故だろう? 今現在ギリギリ理性で抑えている怒りの感情よりも、俺からの命令を聞く方が圧倒的に上であり、何なら命令される事に嬉しさすら感じているような生き生きとしたブリジットのその返答と変わりようをみて、我が家で飼っている犬のペスと被ってしまうのは。


 犬だ犬だと思ってはいたのだが、もうこいつはガチで犬なのかもしれない。


 それを言うと喜びそうな上に面倒臭そうな事になりそうなので絶対に言わないのだが。


 主に首輪とかリードとか散歩とか、懇願してきそう、というかブリジットがして来ない訳がない。


 俺は過去の経験から地雷を回避できる男なのだ。


 そんな事はさて置き、俺は思った。


 教えてもいないのにも関わらず、指笛を吹くとさも当然のようにブリジットが現れた事に。


 と、言う事はだ。


 そして俺は一つの仮説が頭に浮かび『パンパンッ!!』と手を叩いてみる。


「お呼びでしょうかっ!? ご主人様っ!! どんな難題が目の前にあろうとも、この! 僕がっ!! 来たからにはもう大丈夫でございますッ! ささ、なんなりとこの僕にっ!! 命令をしてくださいっ!!! さぁっ!!!!」


 すると、天井から黒い影が俺の前に落ちたかと思うと、膝をついて頭を垂れているドラゴノイドのガレットが現れたではないか。

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