第97話ブリーダーに躾けられた犬

 すると裏庭には既にお兄様が鍛錬しており、美しい氷の華を幾つも咲かせていた。


 その光景は流石としか言いようがない。


 私ですら氷の華を同時に咲かせるとなると、四つ咲かせるのが限界である。


「カレンドールか……」

「はい、お兄様。 お邪魔でしたでしょうか?」

「いや、構わない。 俺はもう鍛錬を終えるつもりだったからこのまま使うと良い」

「ありがとうござい」

「ところで試験なのだが、魔術と実技、両方で一位を取ったみたいだな」

「はい。 今回は何故かブリジットさんがあまり手ごたえが無かったので、苦戦することなく取れました」

「そうか。 因みにクヴィスト家のカイザル……いや、何でもない。 済まない、時間を取らせてしまった。 今回も一位おめでとう。 カレンドール」

「あ、ありがとうございます」


 そしてお兄様は裏庭に私が来たことに気付いたらしく、鍛錬を止めるとこちらを振り向き、私が試験で一位を取った事を褒めてくれるのだが、途中お兄様が『クヴィスト家のカイザル』と言っていた事を私は聞き逃さなかった。


 何故あんな貴族の風上にも置けないような屑の名前が試験の話題で上がって来るのか見当もつかないのだが、お兄様はそれ以上私に聞いて来る事も無く、そのまま裏庭から去って行く。


 本当は何で屑の名前を出したのか聞きたくて仕方がないのだが、鍛錬を終えて疲れているであろうお兄様を止めてまで聞く問題ではないと思い、止める。


 それに、どうしても気になるのならば明日本人に聞けばいい。


 そう思い私は氷魔術でカイザルの等身大の像を作ると、内側から氷の華を咲かせて粉々に砕くのであった。





「今からちょっと校舎裏まで来てちょうだい。 あなたに話したい事があるの」


 そう、クラスメイトであり『ドラゴンファンタジーナイト~愛のラビリンス~』の攻略キャラクターの一人でもあるカレンドール・ルイスが俺に話しかけて来るではないか。


 腰まで伸びた透き通るような銀髪、目は切れ長で、ブリジットとはまた違った美しさがある美人。


 その美しさは、流石攻略キャラクターと言わざるを得ない美しさである。


 今現在は昼休みに入ったばかりであり、教室ではクラスメイト達が『カイザルが何かやらかしたのではないか?』と熱い視線を投げかけて来る。


 そこは『まさかカイザルに告白をっ!?』とならないあたりが俺の人望の無さが窺えるのだが、俺自身も『なにか失礼な事を知らず知らずやってしまったのだろうか』と思ってしまっているので仕方のないことだろう。


 身から出た錆を落とすの時間がかかるものである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る