第93話それがたまらなく嫌だった
そして、その間も各々俺の誕生日を祝う奴隷達の声が聞こえてくる。
「お前達……」
人前では泣きたくは無いのだが、目頭が熱くなってきたので俺は上を向き、袖で目を擦る。
やはり、産まれてきた事を祝われるって、良いものだ。
俺は、この世界に産まれてきて良い存在だったんだと、今日ほど強く自信を持って思える日が来ようとは、去年の誕生日ですら思えなかった。
そもそも、まだ母上が生きていた頃も父親が俺の誕生日を祝おうとすらしてくれなかったので、母上から「誕生日おめでとう」と頭を撫でられるくらいであった。
きっと俺は弟と妹、そして父上に義理の母親から死ぬまで蔑まれ、そしていつお母様のように殺されるかと怯えながら日々を過ごし、そのストレスを身近な弱いものへ強く当たって吐き出すような生活がずっと続くものだと思っていた。
だからこそ俺はスフィアとの婚約が嫌で嫌で仕方なかったのだ。
俺よりも下の家格のくせに貴族同士の繋がりは広く、その分信頼も厚い、スフィアもスフィアの家も。
信頼や繋がりというのはお金で擬似的に真似て作る事はできるのだが、金の切れ目が縁の切れ目というようにそのつながりは実に脆い。
それが、相手を想って出す金であれば恩義を感じて金が切れても関係は続く可能性もあるだろうが、このクヴィスト家がそんな事をするわけもなく、だからこそ父親はスフィアの家であるラヴィーニ家との繋がりを欲したのであろう。
しかし、父自ら頭を下げる事も、弟を差し出すことも嫌だったのだろう。 だから俺と婚約をさせたのだ。
それも上から目線で、高圧的に、さまざまな圧もかけて。
当然公爵家からの婚約を男爵家が断ることができずにラヴィーニ家は俺とスフィアの婚約を承諾した。
それがたまらなく嫌だった。
何が嫌かって、大好きな母上を殺した男とその家族がより幸せになるために俺が使われるという事が、たまらなく、耐え難いほど嫌だったのだ。
でも、無い頭で考えて思いつく作戦など、そこら辺いるならず者に金貨を与える代わりにスフィアを襲わせるという、今思えば実にアホらしい作戦くらいであった。
そしてそれは正に、邪魔な存在は消せば良いという、俺が最も忌み嫌うクヴィスト家、あいつが母上に行なった行為と同じだという事にも気づけずに。
今思えば俺はそれだけ追い詰められていたのだろうが、それでも俺が行った事は許されない行為でもあるし、スフィアが襲われなくて本当に良かったとも思う。
「どうしました? ご主人様」
「……ごめん。 何でもない。 少し昔の事を思い出していただけだ。 みんな…ありがとう」
そして俺は奴隷達からプレゼントを貰ったり、豪華な食事を一緒に食べたり、奴隷達の話に耳を傾けたり、頭を撫でてあげると、その先に撫で待ちの列ができたり、とても楽しい誕生日を初めて過ごすのであった。
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