第56話俺の顔は見られていない



 きっと頭の中はネズミ程の脳みそしか入っていないのだろう。


「悪いと思っているなら分かるよな?」

「そ、その……」

「奴隷に堕ちて俺から奪った分の金貨を鉱山で稼いでくんだよっ! その斡旋くらいはしてあげるからさぁ」


 あぁ、俺はなんて人想いの良い人なのだろうか?


 自ら自分の事を盗人であると自白した奴にもこうしてチャンスを与えるのだから。


 コイツは俺にお金を返せて、俺は何もせずお金を稼ぐ事ができる。


 まさに両方が得をする最高のシステムではないか。


 これを考え付いた俺はやはりこいつらと違って頭の作りが良いのだろう。


「また二人攫って来ましたぜ。 二人の内一人は女性なんで、ウィリアム様が味見した後で良いんで俺に回してくださいよ?」


 そして今日も部下が新しい金の生る道具を捕まえて来たようである。


 我が伯爵家であるホーエンハイム家の家計はつい最近まで両親の趣味である錬金術の研究のせいで火の車であった。


 しかしこの俺が新たに始めた事業により右肩下がりであったホーエンハイム家は持ち直し、更に捕まえた自称盗人たちを使い潰して働けなくなると、それらを両親に格安で販売、両親たちは喜んで買い取り人体実験をする。


 ゴミの身体でも無駄にはせず最後まで使ってやってあげている俺はやはり優しいのだろう。


「お前は本当に女が好きだよな……」

「どうですかね? でもなかなかに美人でしょう? こいつら二人とも全く警戒心が無くて攫うのは簡単でしたぜ──へ?」

「殺されたいのかこの愚図がっ!! このボケッ! カスッっ! お前も奴隷に堕として鉱山に送り込んでやろうかっ!? …………ちっ、思わず殺してしまったじゃないか」


 今このボケが攫ってきた二人。


 この二人は俺が良く学園で見かける顔であり、警戒心が無いと言っていたのも当たり前の人物。


 グラディアス帝国第二王子クロード・グラディアス殿下と男爵令嬢のスフィア・ラヴィーニではないか。


 こいつらは常に護衛を付けて過ごしている分警戒心が無いのだろう。


 そして、幸いなことにこの二人は気絶しておりまだ俺の顔は見られていない。


 どうする?


 殺して証拠を隠滅するか、逃がすか。


 どちらにせよデメリットはあるが、殺した方がバレなければやっていないのと同じというメリットがある。


 しかしいまから殺した所で、目撃者がいたり近衛兵達がここへ連れ去られた事を知っている場合は死体を隠す時間すらも無いだろうし、殺してしまっては死罪は、免れない。


 それならば、保護したという体で解放した方が万が一バレた時に保護しただけだと言い逃れが出来る上に、言い逃れが出来ずとも殺した場合よりも罪状は軽いはずだ。


 さて、どうしたものか。


 そして俺は少し考えた後一つの答えを思いつく。


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