第16話何倍もマシ

「分かったのならばこっちを見るな。 貴様に見られるだけでまるで体中で蛆が這いまわっているかの如くムズムズして不愉快だ」


 いや、気のせいではないだろう。


「……申し訳ございません」

「ぬ、ぐっ……」


 とりあえず何もしていないにもかかわらず、何故ここまで言われなければならないのかという不平不満をぐっと堪え飲み込むと、謝罪の言葉を口にして、この話は終わったとばかりに前を向く。


 そんな俺の態度を見て、まだ言い足りないのか何か言葉を言おうとするも、根が真面目な分、一度謝罪して、忠告を守っている相手には何も言えないらしくブリジットは苦虫を嚙み潰したような表情をしながら口ごもってしまう。


 こんな奴を相手にしたらいくら正論で攻めようとしても無駄であり、彼女の気が済むまで俺へ罵詈雑言を言い続けるだろう。


 であるのならば、言い返したい気持ちを抑えて素直に謝る方が何倍もマシであると言える。


 そもそも今までの俺の撒いた種の結果であるのならばこのような事でいちいち構っていてはキリがないので相手にしないという選択肢しか無い。


 そして俺は教壇にて来週に行う一泊二日の実戦形式の訓練について説明や注意事項を話している担任教師の話を聞きつつ、対策を練り始めるのであった。





 スフィアが襲われるのが、来週行われる一泊二日の実戦形式の訓練中である。


 訓練を行う場所は魔術学園から馬車で半日ほど行った所の山で行われる為、スフィアを襲うには絶好の行事であろう。


 勿論担任教師は生徒の安全を守るため引率してくれるのだが、担任教師といえども人間であることには変わりない。


 一度に三十人ものクラスメイトを同時に見る事など出来るはずも無く、その隙を突かれる訳であるのだが、初めからスフィアが襲われる事が分かってさえいれば余裕で防げるであろう。


 因みにゲームでは今回のイベントが、スフィアルートの分岐点でもあり、ここで主人公がスフィアルートに入っているのならば主人公であるクロード・グラディアス殿下とスフィアが同じ班となるのだが、残念ながらクロード・グラディアス殿下とスフィアは別々の班である。


 まったく、クロード・グラディアス殿下がスフィアルートに入っていればと思わなくもないが、自分で蒔いた種である為、クロードへ怒りを向ける事も出来ずにただ溜息を吐く。


「では、これより山の中へと入りますのでくれぐれも皆さん、はぐれない様にお願いしますねっ!!」


 そんな俺の鬱屈とした気持など知らない担任教師はアウトドア派なのか何時もより高いテンションで一応はぐれない様にと生徒たちへ注意を促しながら山の中へと先陣を切って入っていく。


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