第47話 本当に申し訳ない事をした

 そして、その無言の時間が思っていた以上に心地よかったのか、もしくはここへ来るまでの道中で思っていたい以上に体力面、精神面で疲れたのか、はたまたその両方か。


 俺はいつの間にか眠っていたらしい。


 どれくらい眠っていただろうか。


 まどろみの中、俺の頭後頭部がやけに柔らかい事に気付く。


 例えるならば、最高級枕のような……。


 しかしながら俺は今日、枕など持ってきていないので。もしかすれば朝霧さんがたまたま枕を持ってきてくれたのかもしれない。


 というか、そもそもの問題として眠っていた事を朝霧さんへ謝らなければっ!


 と思い、俺の思考はまどろみから一気にクリアになって行き、急いで起き上がろうとする。


「す、すみませんっ! いつの間にか痛いっ!?」

「へ? あうっ!?」


 そして、俺が起き上がろうとした瞬間『ゴンッ!』という鈍い音と共に額から衝撃と鈍痛が襲ってくるではないか。


 そして、朝霧さんを見れば俺と同じように額を抑えて痛がっているので先程の衝撃と今なお痛む鈍痛は、どうやら俺の額と朝霧さんの額がぶつかったものによるものであるという事が分かった。

 

 その事からどうやら朝霧さんもまた、俺と同じように眠ってしまったようである。


 そんな事を思いながらも俺は朝霧さんへと、再度謝罪をする。


「す、すみませんっ!! 大丈夫でしたかっ!? 」

「い、いえ……私の方こそごめんなさいっ! 大丈夫っ! 大丈夫ですからっ!! に、にににに、新谷さんの方こそ大丈夫でしたかっ!?」

「は、はいっ、むしろ膝枕までしてくれたみたいで、せっかく一緒に来ていただきましたのに眠ってしまって申し訳ないです」


 そして俺が謝罪をすると朝霧さんもオウム返しのように謝罪をして来るのだが、顔が真っ赤に染まり、どこか慌てている風にも見える。


 起きてからぶつかってしまった俺と違い、朝霧さんの場合は眠ているところを額への衝撃と鈍痛によってたたき起こされた形になる為、きっと俺以上にびっくりしてしまったのであろう。


 朝霧さんには本当に申し訳ない事をした。


 そして互いに謝罪合戦が始まり、いつの間にか互いに笑いあう。


 謝罪をして、罵倒され続けるという関係なんかより、よっぽどマシだ。 と元妻との記憶が一瞬だけ蘇るのだが、今は朝霧さんと来ているのであって元妻ではないとマイナス方向へ傾きかけた思考を切り替える。


「では、今がちょうどお昼時ですので、このままお弁当を食べましょうか?」

「それもそうですね。 むしろお昼を寝過ごしていなかったみたいでホッとしました」


 そして俺は、お昼にしましょうと言う朝霧さんの提案を断る理由も無いので、了承して少し大きめの手提げ鞄の中からお弁当を二つ取り出すのであった。

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