第9話お洒落なハンカチ
◆
どやらいつの間にか眠っていたらしい。
何だか懐かしい夢を観ていたような気がしないでも無いのだが、どんな夢だったか忘れてしまった。
思い出そうとしても俺自身が拒否反応を起こしてしまい、まるで記憶に鍵がかけられた様な感覚である。
「やっと起きた。 もう少し眠っていても良かったのに」
まだ完全に脳が覚醒しておらず眠気眼を擦ろうとしたその時、隣から女性の声が聞こえてくると共に脳がクリアになって行く。
「す、すみませんっ!! 何もしないまま部屋に居座らさせて頂くだけでなく食事まで頂いている身でありながら家事も半ばで眠ってしまうとはっ!!」
外を見るともう夕焼け色に染まっており、後半に残していた家事をする事なく眠りこけていた事を思い出し、慌ててその事を謝罪する。
「大丈夫ですよ、そんな事いちいち気にしなくても。 家政夫として拾ったんじゃないんですから」
そんな俺にそう優しく答えてくれる朝霧さんなのだがこの優しさに甘えてしまってはダメな事くらいはいくら俺でも理解できる。
「せ、せめて洗濯だけでもさせて頂きますっ!!」
「へ? あっ!! ダメダメダメダメダメッ!!」
「こう見えても一人暮らしはそれなりに経験してきたつもりですから洗濯くらいできますよっ!! 任せてくださいっ!!」
「っていうかもう日も落ちて来てるから今から洗濯しても外で干せないからっ!! そもそもそういう問題じゃなくてですねっ!!」
そして俺は朝霧さんの静止を振り切り、恐らく週末に纏めて洗おうとしていたであろう洗い物の山にてを伸ばし掴むと、はらりと何かが舞い落ちて来たので拾い上げる。
「なんだ? お洒落なハンカチ………………」
ここまで言ってから手にしたハンカチの様な何かの正体を俺は理解する、いや理解してしまう。
「ハンカチじゃなくて私のパンツですっ!! 悪かったですねっ!! 大人っぽいパンツじゃなくてっ!! だから言ったじゃないですかっ!!新谷さんは洗濯禁止ですっ!!」
「す、すみませんでしたぁぁああっ!!」
そして俺はこの日産まれて初めて心からの土下座をしてなんとか許してもらうのであった。
◆
学校も終わり家へ帰ると新谷さんがちゃぶ台型の床に置くタイプの薄ピンク色した少しだけ横に長い四角いテーブルに突っ伏し、問題集を開いている状態で眠っている姿が目に入ってくる。
どうやらやる事が無くて問題を解き始めたは良いが途中で睡魔に襲われてしまい眠ってしまったのであろう。
その気持ちは分かる。
勉強、特に数学は情け容赦なく人を眠らせてこようとする一種の魔物か何かであったとしても私は驚かないであろう。
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