#03

 でも変身能力があれば努力なんて面倒くさい事をする必要なんてなかったからな。


 兎に角。


 閻魔大王に変身して逃げだそうぜ作戦は見事に失敗したわけだ。


 だったら、大人しくも沙汰を待つしかない。


「フム。一瞬、不穏な空気を感じたが、気のせいという事にしておこう。それよりも今は主の沙汰じゃな。……良かろう。では浄玻璃鏡で生前を見るとしようか」


 浄玻璃鏡とは、その名の通り、鏡で、審判を下す死人の生前の行いを見れるもの。


 確かな。


 ゴクリっと息を飲む。


 その様を見て閻魔大王は静かに目を閉じる。


 そののち浄玻璃鏡にゆっくりと視線を移す。


 …――下らねぇ。本当に下らねぇな、これ。


 とコントローラーを適当にも投げ出す、俺。


 俺が生まれて、そして運命の分水嶺とも言える、あの事件が起こった日まで何事もなく淡々と進んでいったあと、その分岐点に差し掛かった。閻魔大王の右眉尻が微かに上がる。その様を見てしまって焦る。もしかしたらヤバいのか、とだ。


 それでも浄玻璃鏡内での時間は進んでゆく。


 どうにも俺はゲームというものが苦手だな。……特にRPGというジャンルがな。


 いや、苦手というよりは嫌悪感を持っていると言った方が適確か。今、友から面白いからやってみろと無理矢理、貸し付けられた、ありがた迷惑なゲーム機とソフトを前に呆れかえっている。無論、RPGなわけである。天井を見つめて息を吐く。


 大体、考えてもみろ。


 ゲーム機にソフトをセットして電源を入れるだけで手軽に冒険が出来るなんて出来すぎてる。飽くまで主観だが、冒険とは、辛いもので苦しいものだ。旅なのだから風呂にも入れないし、温かい布団で眠る事もできない。それを分かっているのか?


 あまつさえ誰もが簡単に勇者になれ、最後に魔王を倒すなんて出来レースだろう。


 まあ、RPGは魔王を倒すものだけではないという意見は、この際、スルーだな。


 それは魔王が勇者を倒すという逆な話でも、本質は、まったく変わらないからだ。


 加えて、


 俺は努力が嫌いだからRPGでのレベル上げが苦痛でしかない。


 そうだな。そんなヒマがあれば、どうすれば楽にカネが儲かるかを考えていた方が100倍以上はマシだ。というか、今、嫌いなゲームをやっていたせいなのか、現実逃避へと思考のベクトルが傾いている。ああ、楽して金持ちになれないかとだ。


「どうも」


 と、突然、黒いシルクハットを被り、木製のステッキを右手に持った男が現れる。


 俺は、今、俺の部屋にいるから、この怪しい男は土足で、いきなり現れたわけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る