第八章 古の大図書館 ℬパート
ぴちょん、ぴちょん。
天井から垂れる水滴。
薄暗いトンネル。
ぼとぼとぼとっ、ときおり、上の方から落ちてくるがれき。
階段の下にあったのは前に行った古い図書館。
純白のドレスをたくしあげ、ブーツのまま進む私。
そして、かがり火に火をつけ、先導するナツ。
薄暗いトンネルに二種類の水のはねる音が響き渡る。
水路の水は真っ黒に濁り、どこか不穏な雰囲気。
水路の先からはざざざざっという不気味な音。
「なんだ?」
通路の先からやってきたのは、どこかでみたようなムシさん。
ただし、大量。
「つかまれ。」
急いでそのへんの古びたパイプにしがみつく私たち。
まるで波のように足元を通っていく大量のムシ。
なんだか不吉な予感。
「なにかくるぞ。」
今度は真っ暗なトンネルの奥から聞こえてくる不気味なごおおんという音。
ナニカのなきごえのような音?
そして砂埃。
慌てて口元を抑える私たち。
すぐに辺り一面を覆いつくす煙。
目を凝らせば煙の中には不気味な大きな影が。
やがて晴れた煙の中から現れたのは長細い体に銀色のフォルムをしたナニカ。
近くの本棚に顔を突っ込むと、大量の本を口に入れてムシャムシャ。
手をつなぎ、一歩ずつ、ゆっくりと後ろへと下がる私たち。
キシュとか気持ちの悪い音をあげ、こちらを向くソイツ。
「気づかれた…!、走るぞっ。」
「えっ。」
本棚を引きちぎりながら突っ込んでくるソイツ。
ナツに引っ張られ、慌ててドレスをたくし上げ先を急ぐ。
昨日の虫さんとは違ってすごい暴力的な銀色のナニカ。
「ね、アレは?なんなの?あんなのお話には…。」
「俺たちが生まれるはるか昔からいる紙を食べる虫だ。俺たちにとっての天敵さ。」
肩で息をしながら、曲がり角に姿を隠すナツ。
バコンと大きな音をたて、本棚をなぎ倒し、私たちの前に再び姿を現す化け物。
さらに奥の通路の角を曲がって、何とか回避する私たち。
今度は土煙を上げ、たくさんの足で壁を走り出す銀色のソイツ。
壁を大きな口で削りながらこちらへ向かってくる。
かじられた場所にはぽっかりとあいたゆらゆらと揺れる宇宙のような無の空間。
「せめて隙でもあればな。」
そう言って剣の柄に手をかけるナツ。
ぴちょん。
どこからか聞こえる水の音。
「ね、それならさ、こんなのはどうかな。」
松明、片手に図書館の中を移動する私たち。
「こっちだ。」
松明を揺らし、本がよごれないように怪物を図書館の外へと誘導する。
通路に置かれたランタンを破壊しながら向かってくる怪物。
炎に包まれるのも気にせずこちらへ向かってくる。
ぴちょん。
再び聞こえる水の音。
漏水しているお城側の通路へとムシを誘導する私たち。
「いまだ。」
ナツの掛け声とともに水の漏れしている配管をぶっ壊す私。
ごおーっと吹き出す水。
一気に上がる水面。
うろたえる怪物。
その隙に上から思いっきり剣を突き刺すナツ。
ぷしゅーっという音と煙。
先ほどまでの勢いが嘘のように勢いを失い、水流に飲み込まれていくムシ。
最後には自らが開けた穴に吸い込まれ、見えなくなった。
ほっと一息つく間もなく、さらに勢いを増し、上昇していく水量。
ナツと手を取り合う暇もなく、足のつかなくなった水に飲み込まれ、意識を手放す私。
「ありがとう。」誰かの言葉が聞こえた気がした。
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