第96話むしろ夢であれ
その事を考えると俺は外を出歩く際は最低でも彩音か麗華か美憂の誰かと一緒に行動しなければならないという事でもある。
まさに、これこそが麗華の作戦なのだろう。
当初こそ二人の性格上彩音と敵対するものと思っていたのだが、敵対するどころか仲間に加え、さらに翌日にはクラスメイト達にまるで二股をしているように見せかける意味が分からなかったのだが、今まさにその意味を理解する事が出来た。
そして、理解するのが余りにも遅すぎた。
三股、それも学園のアイドルであった彩音と麗華、更に隠れファンの多い美憂との三股をして独り占めしているというレッテルを貼られてしまっては手遅れであり、多種多様な噂が流れてしまっていいる状況では最早、例え冤罪であったとしても弁解の余地など一ミリも残っていないだろう。
それは即ち、俺のプライベートな時間など無いに等しい事になったという事でもある。
麗華の地頭の良さを、こんな俺みたいな男を包囲する事に使うのではなく、もう少し世間様に役立つ何かにこそ使って欲しいと切に思う。
なんならもう俺の事などほっといて欲しい。
見て欲しい。
クラスメイト達から俺に向けられる目を。
彩音や麗華は俺がこんな視線にさらされてもその良心は痛まないのだろうか?
美憂は一旦置いておくとして、一度彩音と麗華の良心に訴える作戦に出る事にする。
なんだかんだ言っても彩音も麗華も人の子であり、人の心を持っているのだと信じたい。
美憂は……それこそ藪蛇になりかねないので良心へ訴えてみる対象からは省く。
あれは目覚めさせてはいけない、人の皮を被った魔物か何かだ。
「なぁ、彩音、麗華」
「なにかしら? 健介くんから話しを振るのは珍しいから割と興奮しているのだけれども、まずは話の内容を聞かせてもらおうかしら」
「何? こないだの告白の返事? 当然付き合うって事で良いよね?」
どうしよう。
もう心が折れそうなんだが。
彩音に至っては『シュッ、シュッ』と殴る動作までし始めているではないか。
「あれ? まさか、私だけ仲間外れって事は、ないですよねぇっ!? たまたま私の名前を呼び忘れただけですよねぇっ!? ねぇ、どうなの? 健介君」
あぁ……知人がいないどこか遠くの場所にいきたいなぁ……。
「も、ももも、もちろんだよ美憂ちゃ──」
「なんで私だけ呼び捨てじゃないのかな? 健介君」
「み、美憂……っ」
「うん。 私は健介君の物だよっ!! えへへ、まさか健介君から名前を呼び捨てで呼ばれるような日が来るなんて夢のようですよっ!!」
むしろ夢であれ。
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