第73話余計な事

 何故だろう? 今目の前で繰り広げられている甘い光景は、俺が今まで夢にまで見たシチュエーションが現実として実際に行われているのだが、少しも嬉しく思わない。


 むしろこの光景に恐怖すら感じてしまう程には、俺が夢にまで見たシチュエーションを恐ろしいと思ってしまう。


 ただ、俺を拉致して監禁している理由が憎しみだとか怒りであるとか、そういった負の感情ではない事を知って、最悪の事態は免れたと見て良いだろう。


 その点に関しては一安心といったところだ。


「どうしたの? 食べないの? まさか、私の作った料理が食べれないとかじゃないよね?」

「い、いえっ! 食べますっ! 食べさせていただきますっ!!」

「良かったですっ。 これ程愛情を込めて作ったオムライスが食べれないなんて言われたらと思うと、悲しくて心中してしまうところでしたっ。 ねぇ? 心中の意味知ってますか? 男女が互いの愛情が変わらない事を示すために、一緒に自殺をする事なんだってっ! これはこれでロマンチックと思いませんかっ!?」


 ……全然安心なんかできなかったっ!! こいつ、ヤバいやつだっ!!


「じゃぁ、私が食べさせてあげますね。 私、両想いの彼氏ができたら手料理を食べさせてあげるのが夢だったんですっ!」


 あれ? 聞き間違いかな? 今さっき高木さんは『両想いの彼氏』って言わなかったか? 強引に拉致監禁をして一方的に無理矢理好意を押し付けている、の間違いではなかろうか? とは思うものの、決して口にはしない。


 多分、行った瞬間殺される。


「今こうして夢が叶うと思うと、何だか感動で泣けてきてしまいそうですっ! で、では行きますっ。 はい、あーーーんっ」

「あ、あーん……」

「お、美味しいですか?」

「お美味しいなぁ……。 うん、とっても美味しいですよ……っ」

「良かったぁーっ。 まだまだ沢山あるから円量なくおかわりしても良いからねっ!」


 あぁ、夢にまで見た、高木さんとのイチャラブな行為。


 まさか高木さんから『あーん』をされる日が来るなんて、少し前までの俺は思いもよらなかった。


 さらに、高木さんは俺の事を愛していると言ってくれたのだ。


 もし、高木さんが俺の事を好きでいてくれたのならば、どれ程嬉しい事か、とずっと願ってきた。


 けど、夢が叶ったはずなのに、愛しい女性とイチャイチャしているはずなのに。


 何でこんなに怖いのだろうか?


 流石にこれはあんまりではないか。


 神様がもしいるのならば、なぜこんな余計な事(高木さんに変な性癖を加えた事)をするのかと本気でクレームを入れたい気分である。

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