第70話職務質問

「え? 諦める?」

「いえ、何もないです」


 そして、思い出の公園には自身の想いを告げてスッキリした麗華と、その結果もやもやだけが残った俺がいるのであった。





 その夜、私は健介君と別れた後『フラれたんだ』という事実に押しつぶされそうになり、道路の端で蹲ってしまう。


 フラれるという事はある程度分かっていたし、フラれた時は『やっぱりな』というのが率直な感想であった。


 しかし、フラれるというモノは私が想像していた以上に辛く、健介君の前で気丈に振舞うので精一杯であり、少しでも気を抜くと泣いてしまいそうになる自分を奮い立たせていた。


「なに蹲っているのよ、麗華らしくも無いじゃない」


 そして、そんな私に声をかけてくれる一人の女性。


「ほらみなさい。 経験者の言う事は信用するものよ」

「そ、そうね。 それに関しては私が間違っていたわ」


 その女性は天上彩音であり、昨日健介君にフラれた女性でもある。


 そして彩音は昨日の夜に『フラれるのは思っている以上にきついから、帰り健介と別れた後慰めてあげるわよ。 どうせ麗華の事だから健介の前では強がって気丈に振舞うのなんて見え見えなんだからね』という電話を貰っていたのだが、フラれるという事は何となく分かっていた為『結果が見えているのに悲しむも何も無いわ。 私は大丈夫よ』と返事をしていたのである。


 それなのにこの様だ。


 笑い話にもならない。


 しかし彩音はそんな私をみて、笑うでもなく、バカにするわけでもなく、正面から優しく抱擁してくれて、何も言わずに背中をさすってくれる。


 その彩音の顔を見ると、泣いていた。


「な、何で彩音が泣いているのよ、バカッ」

「麗華が泣かないからでしょうがっ」


 そして女性二人、道路の端で声を殺して泣いてしまうのであった。


 きっと、事情を知らない人達から見ると異様な光景に見えていたに違いない。


「ねぇねぇ、お姉さん達どうしたのかな? 大丈夫? 話聞こうか? 何か嫌な事でもされたのかな?」


 だから、警察官のお兄さんから職務質問をされてしまうのは致し方ないのである。







 告白をされて、フルというのは思っている以上に心にダメージが来るものだという事をこの歳になって理解する。


 それも、二日連続でフッた為、かなり気が滅入ってしまいそうだ。


 それでも、フッた俺よりもフラれた二人の方が精神的ダメージは明らかに上であろう事は容易に想像できてしまう為泣き言は思えど決して口にはしない。


 そんな事を思いながら家の中に入ろうとしたその時『バチバチ』という音と共に背中に鈍痛を感じ、意識を失うのであった。

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