第68話世界で一番好き。 大好き。 愛してます

 麗華はそう言いながら俺の瞳を真っ直ぐ見つめてくる。


「でも、友達がいなかった私には当然遊ぶには対戦相手が必要なトレーディングカードゲームである遊戯マスターのデッキどころかカード一枚すら持っている訳もなく、その旨を伝えて断ろうとしたのだけれども、その人は「なら俺のデッキを貸してやるから一緒にやろうぜ」と言って私の手を引っ張ってくれて、遊戯マスターで遊んでいる子供達の輪の中に半ば強引に入れてくれたのよ。 私の返事も聞かずに。 最初は『何なの? 返事も聞かないで。 失礼ないひとね』と思ったけれども、そんな感情とは別にとても嬉しく思っている私もいたの。 だって、初めてだったから。誘われて惨めな気持ちにならなかったのが。 その男の子が『私が可哀想』だとかそういう感情からではなく、ただ純粋に『私と遊戯マスターで遊びたい』って気持ちだけで誘ってくれたのがわかったから」

「それって、もしかして……」


 流石の俺もここまで言われたら思い出す。 いや、忘れた事などなかったのだが、まさかあの日誘った相手が、幼い頃に一緒に良くここ、ぞうさん公園で遊んでいた友達が氷室麗華と結びつかなかったのである。


「いやでも、ムーちゃんは男の子だったはずでは……?」

「失礼ね。 私はあの時、初恋だったのよ? まさか今になって男の子だと思われていたとか思わなかったわ。 だから、折角再会しても声ひとつかけてくれなかったわけね。 納得したけど納得できない、複雑な感じだわ」

「いやでも、あの頃のお前、髪短かったし……」

「今時髪の短い女の子なんていくらでもいるでしょう? 私、この街にまた戻って来れて、そして健介と同じ高校だと分かった時、運命だと思ったわ。 あなたを見つけた時、声をかけたくて仕方なかったのだけれども、やっぱり最初は健介から声をかけてもらいたかったし。 でも一向に声をかけてもらえないどころか、目があっても何も反応がないんだもの。 健介は私の事なんか忘れたのだと思って悲しかたけれども、例え健介が私の事を忘れていたとしても私は健介の事を諦める事なんてできなかった」


 そして、氷室麗華は、意を決したような表情をし、頬を赤らめながら俺を見つめる。


 その表情は、文字通り息を呑むほど美しかった。


「私は、高城健介が好きです。 世界中で一番、あなたの事が好きだという自信もあります。 本当は二つほど隣りの町へ引っ越す事になった時に言いたかったのだけれども、この気持ちを今になってやっとあなたに伝える事ができました。 私は健介が好き。 世界で一番好き。 大好き。 愛してます」

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