第58話初めてだから……

「それはそうと、ぼけっと突っ立ってないで今日デートする女性を前にして何か言う事は無いのかしら?」


 そして氷室麗華はそう言うと、さりげなくポーズを決めるのだが、その耳はかすかに朱色に染まっているのが見えた。


 そして、俺は氷室麗華の全身をつま先から頭のてっぺんまで確認する。


 氷室麗華の私服は今まで見たことは無かったのだが、あえて言うとすれば──


「重い」


──そう、物凄く重いのである。


「な、なに言ってんだよ彩音っ!! 重い事は無いだろう? こういうのはあれだっ! 独創的なファッションとか、自分を持っているとか何とか言うおしゃれ力が高いからこそ着こなせるコーディネートなんだよ多分っ!! 黒いスニーカーに黒いロングスカートからチラ見えする黒いストッキング、黒い手提げ鞄に上半身は黒いペプラムが、氷室麗華さんの銀髪をより一層冷たく見せているだろうっ!!」

「……………………健介君、怒らないから貴方の本心は?」

「……ごめんなさい、黒一色は流石に重いと思いました」

「……………………そう」

「いやいやいや、でもそれはそれで氷室麗華さんおの良さでもあるのかなーと思ったりしますしっ!!」

「お世辞はやめてちょうだい」

「は、はい」


 そういつも通り淡々と話す氷室麗華なのだが、先ほどの少しだけ期待していた表情とは違い少しだけ落ち込んでいるような表所をしていた。


「じゃあ、今日はまず二人で服屋にでも行って健介が麗華の服を選んであげなさいよ」

「そ、そうよね。それだと私は健介君の好み色に染まるわけねっ! ……あ、ありがとうございます、彩音さん」

「べ、別にお礼なんか要らないわよっ!! そんな事よりも時間は有限なんだから早く行ってらっしゃいっ!!」


 そしてあれよあれよと本日前半のデートプランが俺抜きで決定したようで、俺と氷室麗華は総合スーパーであるイーオーンの中にある洋服店へと向かうのであった。





 バスを乗りイーオーンへとやって来た俺達は早速氷室麗華の着る洋服を選びに行こうと中に入るのだが、氷室麗華はイーオーンが物珍しいのか子供のようにきょろきょろと目を輝かせながらあたりを見渡しているせいで、気になった箇所にふらふらと流れ初めてしまっていた。


 流石にお互いスマートフォン等も持っているし迷子になる事は無いのだろうけど、それでもはぐれてしまうと後々面倒なので駄菓子コーナーへと吸い込まれそうになっている氷室麗華の手を掴み、引き戻す。


「あっ、ごめんなさい。 私、こういう所へ来るの初めてだから……」

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