第59話ギャップ萌えという奴

 いつも凛としている氷室麗華とは違い、少し恥ずかしそうに言う彼女はとても新鮮で、可愛らしいと思ってしまうのは仕方のない事だと俺は思う。


「へぇ、そうなんだ。 この年齢でイーオーン初めてって珍しいな。 友達と来たりとかは無かったのか?」

「いままで友達と呼べるような人はいなかったわ。 あえて挙げるとすれば小学生時代に一人だけいたくらいだもの」

「そ、そっか。 なんかごめん」

「いえ、別に隠すような事でもないし別に良いわ。 それにそのお陰で私の初めてが健介くんとデートなのだがらむしろ良かったとすら思う程よ?」


 そう言うと微笑む氷室麗華は、周囲を歩く男性全てが見とれてしまう程とても魅力的で、俺は思わず目をそらしてしまう。


 確かに来ている服の色こそ黒一色で重たいのだが、だからと言って彼女の魅力が損なわれてしまうという訳でもない。


 美人なら何を着ても似合うというのは正にこの事なのだろう。


「じゃ、じゃあ行こうか」


 そして気恥ずかしくなった俺は話題を変えようと本来ここに来た目的地へ向かおうと提案し、手を放そうとしたその時、力を抜く俺の手を氷室麗華が力強く握ってくる。


「ひ、氷室さん?」

「今日は私の記憶が正しければデートのはずよ。 だったら手を握ったままでも問題ないはずだわ。 だって、デートだもの」


 そういう氷室麗華はまるで自分に言い聞かせているように握り返した言い訳をする。


 それに、手を放してまたフラフラとどこかへ行きそうになる未来が容易に想像できてしまうのでこのまま繋いだ方が良いだろうとも思う。


 まるで元気盛りの子どもを連れて来た父親のような気分だ。


「それと、デートの相手に苗字呼びは流石に他人行儀過ぎるわね。 れ、れいぴょんとか、れいっちとか、読んでくれても……良いわよ」

「じゃ、ゃあ麗華で良いか?」

「……っ!!(激しく首を縦に振る)」


 そして耳まで真っ赤にして苗字呼びは他人行儀だと告げて来る麗華なのだが、今日の彼女のコーディネートからある程度予想していた通り彼女のセンスは何処か微妙にズレているみたいで、麗華が上げて来るニックネームの数々を高校生にまでなって呼ぶ勇気は俺には無く、無難に下の名前を呼び捨てで呼んでも良いかと聞いてみると、それでも問題ないようなのでそうさしてもらう事にする。


 それにしても、まだ数時間しか一緒に過ごしていないのだが普段の彼女から想像していたような事務的な感じではなく、同級生達よりも大人びているように見える麗華も年頃の女性なんだなと思うと、それはそれで可愛く見えて来るのだから不思議である。


 これがギャップ萌えという奴か。

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