第55話告白へ返事をする

「言っても信じられないかもしれないけれど、私は昔から健介の事が好きです。 ま、毎日健介に暴力をふるっておいてどの口がって思うかもしれないけれど……私は本当に健介の事が好き。 そしてこの欲望を暴力をふるって健介を私の思い通りに動かす事で満たしていた事は、動機など関係なく人として決してやってはいけない事でした。 謝っても謝り足りないしそれで今までの行いがチャラになるとも思っていないけれども、それでもこの件に関しては謝りたいと思っています。今まで本当にごめんなさい……。 そして、こんな私に今まで付き合ってくれてありがとうございました」


 震える声で、目には涙を溜め、どこか不安そうで、でも力強く俺を見つめながら告白して来る彩音。


 しかし、この告白に俺は違和感を感じてしまう。


 彩音の告白からは俺からの返事を端から決めつけているようにしか聞こえないのである。


「うん……確かに、暴力をふるわれてきた事を謝罪の一言で無しにしてくれと言われても無理だと思う」

「そ、そうだよね……。 今日はこんな私に付き合ってくれてありがとう。 じゃ、じゃあ私は先に帰るねっ!!」


 俺がそう答えると彩音はやはり先ほどの告白の返事を聞かずに走り去ろうとするのだが、そうするだろうと思っていた俺は彩音の手首をつかみ引き留めようとするも、あの彩音を俺ごときが止めれる訳も無くバランスを崩して倒れ、一メートル程引きずられてしまう。


「……………………」


 恥かしい。


 きっと穴があったら入りたいというのはこういう時に言うのだきっと


 彩音の体幹と力強さは文字通り身体で体験して分かっていた筈なのに、先ほどのしおらしい反応やわんぱく園での普通の女の子らしい反応により、俺の頭からその事が抜け落ちていたみたいである。


 それでも俺は彩音を引き留める事が出来たため、スッと立ち上がると汚れを叩き落とし、まるで何事も無かったかのように振舞う。


「……あははははははっ! もう、私の一世一代の告白が台無しじゃないっ! 何をしているのよ全くっ!」

「す、すまん」


 そして彩音は涙を浮かべながらお腹を抱えて一通り笑ったあと、真剣な表情で俺を見つめて来ると、少しだけ頬を染めて口を開く。


「それで、そんなになってまで私を引き留めた理由って何? わ、私……期待してもいいの?」


 ほんと、この場面だけ見るとただの女の子なんだけどなぁ……。


 そう思いながら俺は先程の告白へ返事をする。


「確かに暴力をふるわれ続けてきて、逃げたいとも思ったし、今も正直言うと彩音の事が苦手だし怖いと思っている」


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