第48話一筋の涙を心の中で流す

 そして一泊置いてから聞こえて来る男子生徒達の悲鳴と「『私たち』という事は天上彩音ちゃんもという事かぁぁあああっ!!!!」という、まるでここが地獄の底にように錯覚してしまう程の断末魔が聞こえて来る。


 どうやらこの学園にはまともな思考を持つ男性は一人もいなかったようだ。


 まともな思考を持ってさえいれば真の女神は俺の両隣にいる氷室麗華や天上彩音という見てくれだけの女性などではけっしてなく、高木美憂さんだと気付くはずなのだから。


 氷室麗華や天上彩音という偽りを崇拝するからこそ降りかかった悲劇とも言えよう。


 俺からしてみれば成るように成った、自業自得としか思えない。


今日こんにち以降は真の女神は誰なのか今一度考えて欲しい。


 さすればおのずと誰が本物の女神なのかがきっと分かるだろう。


「ちょっとどういう事よっ!!」


 そして元友人であった中川優斗が膝から崩れ落ちた後、クラス委員長であり彩音の友人でもある藤原菜々美が「私っ!怒ってますっ!!」という表情で選手交代とばかりに声を荒げてやって来る。


 その隣には同じく彩音の友人であるさっちゃんこと武田紗綾。


「どういう事、とは?」

「ふ、二股は百歩、いや一万歩譲って、彩音がそれで幸せならと思えたけど流石にアレをするのは早すぎるでしょうっ!! まずはデートを重ねて、手を握ったりしながら二人の距離を縮めていき、キスなんかしちゃったりして、そしてアレへと至る物でしょうっ!! 彩音を性欲の捌け口としか思っているんじゃないでしょうねっ!?」


 藤原菜々美がそう捲し立て、隣で武田紗綾が「うんうん」と首を縦に振る。


「すみません、『アレ』ってなんですか?」

「あ、『アレ』はあれよっ!!セッ…………察しなさいよぉぉおおおっ!! このばかぁぁあっ!!」

「あ、ちょっとっ! ななちゃんっ!?」


 俺はただ『アレ』とは何か聞いただけなのに藤原菜々美は顔を真っ赤にしながら教室の外へと走り去り、武田紗綾が追いかけるようにして去って行く。


 うん、彼女達は純情で清く、初心だったのだろう。


 平和でいいことである。


 あぁ、俺の日常は一体全体どこへ行ってしまったのだろうか?


 そな事を思いながら俺は一筋の涙を心の中で流すのであった。





 それからの学園はというと、俺の下駄箱には毎日ラブレター(呪いのお手紙)がパンパンに、無造作に突っ込まれているくらいは至って平穏であった。


 少しだけ視線は痛いものの気にしなければどうという事は無い。


 あと数年間の辛抱である。


 と、強がってはみるものの俺も普通の人間なので人並みには傷つくのだが、それもマヒして来たように思うと共に人間の適応能力の凄さを改めて感じさせられる。

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