第39話気が付いたら放課後

 そして気が付けば渦中のど真ん中に放り込まれている俺の意思など関係なく、結局その後のクラスメイト達の反論も虚しく氷室麗華により華麗に論破されてしまい、俺の休日は消え去り地獄の休日である事は決定事項である事を知って動揺してしまう。



 それからというもの俺はまるでサメが泳ぐ海で泳いでいるような数時間を過ごし、何とかお昼休みまで生きながらえる事が出来た。


 サメが泳ぐ海で泳ぐと言っても一応は氷室麗華と天上彩音という檻に守られている為安全ではあったものの、この檻が無くなった瞬間どうなるか想像するだけで恐ろしい。


 そしてこの現状を理解している二人は休み時間になると、そうするのが当然の様に俺の元へとやってきては胸を押し付けるように腕を絡めて来ては、周囲のサメたちをこれでもかと刺激する。


 ハッキリ言って生きた心地がしない。


 昨日までは二人を避けるように生活していたのに今では二人が近くに居ないと生きていけないという、まるで世界のあり方が反転してしまったかのような錯覚に眩暈がしそうだ。


「はい、あーん」

「あ、あーん」

「どう? 美味しい?」

「お、美味しいなぁ……」

「そ、良かった。 で、でも別にあんたの為に作ってやったんじゃないんだからねっ!!」


 さいですか。


「では次は私の作った弁当を食べなさい。 ほら、あーん」

「あ、あーん」

「お、美味しいかしら?」

「お、美味しいよぉ……」

「ふふ、それは作った甲斐があったわね」


 さいですか。


 そして今現在、お昼休み真っ只中の俺の胃はストレスで穴が開きそうである。


「あのー……」

「何?」

「何でしょう?」

「一人で食べれるからわざわざ食べさせてもらわなくても良いかなぁー、なんて」


 昼休み、二人が俺の為に弁当を作って来たと手作りの弁当を取り出せば周囲の怨念と怒りゲージが上昇し、そしてこうして二人に食べさせてもらう度に更に上昇していいるのが痛いほど伝わって来る。


 中川なんか鬼の形相をし、血の涙を流しながら俺を見つめて来ている。


 泣きたいのはこっちの方だ抗議したいところだが、言えば俺の命は無いだろう。


「は? 私が作ったお弁当食べたくないの?」

「いや、そうではなくて……」

「困ったわね、せっかく作ったのに」

「いや、だから…………食べさせて頂きます」


 これでは、催眠術アプリ無くても俺はこの二人の言われた事を拒否できないではないか。


 そして俺はストレス過多により考える事を、本能的に辞めたていたらしく気が付いたら放課後であった。




「じゃぁ、高城君、今日は一緒に行きましょうか」

「……は、はい」


 放課後、今日も二人一緒に催眠術アプリを使うのかと身構えていたのだがそんな事も無く、彩音は先に帰ると帰宅し、俺は氷室麗華と二人で体育倉庫へ向かう。

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