第25話健介の他に殴りたいと思ったのは初めてだ

 その泥棒猫の名前は氷室麗華という名前の女性であり、同性である私から見てもかなり美人な女性である事が腹立たしい。


 そんな彼女であるのだが、普段は無口で、同じクラスメイトの私ですら一日を通して喋ったところを見たことが無いような、愛想も愛嬌もない、そんな女性である。


 しかしながら何故が異性からの人気が高く高嶺の花扱いをされている、そんな彼女が何故健介に対して催眠アプリを使ってまで接点を持とうとするのか理解が出来ない。


 彼女であれば催眠アプリを使わずとも異性に一声かければホイホイと付いて来るバカは沢山いるだろう。


 わざわざ健介だけ毎回呼び出しては催眠アプリを使う理由に、まさか氷室麗華も私と同じで健介の事が異性として好きなのではないか? とも思ったのだが、そもそもただでさえ他人と接点を持とうとしない氷室麗華なのである。


 それは当然同じクラスメイトである健介も例外なく接点など無いに等しい上に、私が言うのもなんだがこれと言ってイケメンでも無い、そんな健介の事を異性として好きになるのだろうか?


 私の様に昔からの幼馴染というのならば痛いほど理解できるのだが、氷室麗華と健介が出会ったのは高校に入ってからである。


 そして今日に至るまでに二人が交わした会話など片手に収まる程度だろうし、その内容も事務的な内容で間違いないだろう。


 だからこそより一層、氷室麗華が催眠アプリを使ってまで健介に固執する理由が全くもって理解できない上に、理由が分からないという事が余計に私の不安にさせる。


「それで、話って何なのかしら? わたしも暇じゃないので手短にしてちょうだい」

「ぐっ、私が貴女を人気のない校舎裏に呼んだ時点で何の話か察するでしょうっ!!分からないとは言わせないわよっ!!」

「……………………リンチ?」

「ちがぁぁぁああああうっ!! 何でそうなるのよっ!! 健介っ!! 高城健介の事についてよっ!!」

「なら初めからそう言ってちょうだい。私はエスパーではないのよ?」


 考えれば考える程日に日にその不安は大きくなっていき、ついに私は不安の根源である氷室麗華を放課後校舎裏まで呼び出してみたはいいものの、出会って数秒しか経っていないのに思わず手が出そうになってしまうのだが、普段健介以外の前では猫の皮を何枚も被っている私は必死に殴るのを我慢する。


 健介の他に殴りたいと思ったのは初めてだ。


「そんな声も出すのね。 野獣かと思ったわ。 普段の彩音さんと今の彩音さん、どちらが本当の彩音さんかしら?」

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