第23話辞められなくなるという悪循環
「あ、おはよー。 朝ごはんもうすぐで出来るからテーブルに座って待ってて」
「あ、ああ」
あぁ、リビングのソファーと足の短いテーブルじゃなくてちゃんとダイニングのテーブルで食べるのか。
と少しほっとしてしまう。
もし昨日と同じ状況になってしまった場合、さすがに二日連続ともなれば新たな扉を開けてしまう自信しかない。
そして手際よくテーブルに並べられるのは焼鮭、卵焼き、みそ汁、ごはん、焼き海苔である。
そして当然のように彩音は俺の隣に座って来る。
何で? って思うものの、口にしてはいけない。
言ったら最後、腰の入った蹴りか鉄拳が飛んでくるからである。
聞き飽きたかと思うが、用心するに越したことはない。
天上彩音という生き物は口よりも先に打撃が飛んでくる、ふとした瞬間、その気の緩みが直接死に繋がる、そういう生き物なのだ。
確かにここ数日は大人しいかもしれないが、天上彩音は天上彩音。
騙されてはいけない。
何も変わってなどいない。
「何してるの? 早く食べさせてよ」
「……………………は?」
一瞬何を言っているのか理解が出来なかったのだが、脳がバグりそうになりながらもゆっくりと処理をして推理をした結果、恐らく催眠術中の俺に対する接し方が思わずぽろっと出てしまったのだろうという結論に至った。
しかし、だからと言ってこれから起こるであろう悲劇を回避する術が閃くわけでもない。
ただただ顔がみるみる真っ赤になっていく天上彩音を見ながら、そろそろだと覚悟を決めるのみである。
ここで逃げればより一層酷くなる事を俺は体で覚えている。
「……………………な、なななななな、何でもないから今すぐにでも忘れろぉぉおおおおおっ!!!」
「何故ぐふうぅぅぅうううっ!?」
そう、こいつは理不尽と暴力の申し子なのだから。
そして俺は薄れゆく意識の中、天上彩音に絶対に安全な対応は無いと思い知るのであった。
◆
またやってしまった。
また暴力で解決してしまったと、大好きな健介の鳩尾を思いっきり殴った後に自己嫌悪に陥ってしまう。
いつのころからだろうか? それすらももう思い出せないのだが、口下手であった私は暴力で解決するという最低な方法に依存してしまっていた。
そして、その結果健介が従順になっていくのを見てより一層暴力を振るうようになった。
頭では逆効果だと分かっていても大好きな健介が私のいう事を聞いてくれるというだけで一気に幸せな気分になり、その高揚感が忘れられず、そしてまた味わいたいと思ってしまう上に、簡単に手に入る暴力という手法を辞められなくなるという悪循環。
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