出会い系で1km圏内のサクラと会うことになったら、幼なじみの桜と出会った

@kinokogohan

第1話 サクラがサクラらしくない件


出会い系サイト…現実世界リアルで恋愛できない人が利用するサイトである。これだと少し偏見があるか。

…もちろん、リアルで恋人がいるイケメンや美女も利用しているサイトである。だが、そういった彼ら彼女らは出会い系サイトでも普通にマッチングするし、出会い系というよりはただ遊び友だち探しという感じなのだろう。


ちなみに、顔平均、身長平均の俺は顔出しもしていないし、そのせいあって余計にマッチングできないし、マッチング経験自体がない。

正確に言うと、サクラしかマッチングしたことがないのだ。



無駄にメッセージこそ送られてくるものの、高額サイトへの誘導だったり、怪しげなURLの添付だったり、個人情報をやけに聞いてきたり…。出会い系に蔓延る魑魅魍魎は枚挙にいとまがないのだ。


そんな訳で、年齢=彼女なしの俺の、僅かな望みをかけた出会い系サイトも、彼女を作るには駄目だったのだと思っていたのだが。


何を思ったか、ヤケになった俺はサクラに逆にアピールしてやろうかと…これまでの憂さ晴らしがてらに、突然にメッセージを送り出した。


別にいいだろう。向こうもいいカモがメッセージ送ってきやがった、みたいな感じでメッセージを返してくれるし。

ある意味、女子と連絡を取り合ってる気分になれるので、win-winの関係じゃなかろうか。まぁ、高額サイトへアクセスしたり、URLを開いたりはしないので、向こうにWinがあるかは不明だが。




…「サクラ」?わざわざ自分でサクラだと名乗る阿呆がいたみたいだ。

スマホでページをスクロールしていると出てきた1人の女性ユーザーが目についた。

せめて別の名前にすれば、サクラを怪しまれないだろうに。

しかも、半径1km圏内って…。絶対サクラだろう。

ただ、今回ばかりは運が良かったな、と顔も知らない相手の心中を慮る。なぜならば、俺はサクラと無駄話をしたかったから。



『はじめまして、よかったらお話しませんか?』


さっさとメッセージを送信する。


『あ、ありがとうございます。私初めたばかりで結構怖かったんですけど…私なんかでよかったらお話しましょう』



出たな。サクラの定型文、「初めたばかりだから〜」


そういう風にメッセージを送ることで、男性側のアンテナのように張っている神経を休ませようとするのだ。

初めたばかりだと勘違いした男性ユーザーは、その相手との会話に夢中になる。話が進んで盛り上がったところで、高額サイトへ移動させようとするのだ…許せねぇよ…。

…別に俺の実体験じゃないからね?そういうこともあるらしいということであって…。



『ユウキさんって、恋人いたことないんですか?私も同じで…周りには見栄を張って恋人5人くらいいた、なんて言ってるんですけど…』


『そうなんですね。サクラさんなら、きっと良い人見つかりますよ』


恋人がいたことない、これも定型文だ。

そう言うことで、男性側が俺にもチャンスあるんじゃね?ワンチャンあるんじゃね?と勝手に思い込んで、話を続けさせて、盛り上がったところで……もうこの話はやめよう。俺の古傷が痛むから。



そんなこんなで、なぜか高額サイトに誘導されることも、怪しげなURLを添付されることもなく、普通に会話のやりとりができた。


『よかったら追加していただけると嬉しいです』


その文言と一緒に、URLの添付。

やはりそういうことか。実に面白いと、物理学者のようにかけてもいない眼鏡をくいっと、そして軽くほくそ笑む。


まぁURL踏むくらいならいいかと、気軽にタッチして誘導されることにした。




あれ?これ、ガチの連絡先じゃないか?

名前はさくら、プロフィール画像に恐らく友人とのツーショット。友人とのやりとりが載せられたTL、グルメサイトのイイネなど…。


『追加していただきありがとうございます。よかったらこちらでも仲良くしてくださいね』


『こちらこそ、よろしくお願いします』


追加したから、数分後メッセージが送られてきた。既読がついてから、数分後だったので自動送信の類ではない。ますますガチのやつじゃないかと信憑性が高まってきた。

そんなわけで、俺にとっては普段使いのSNSに変わってからメッセージのやり取りが始まる。


『サクラさんって、何で出会い系サイトに登録したんですか?』


『先程述べたように、恋人いないのに見栄を張ったので…先日恋人を連れてこいと言われまして…仲良くなれそうな方に協力していただけないかと考えまして』


『そうなんですか。それなら、リアルの男友だちでいいんじゃないですか?』


多分リアルの男友だちくらいいるだろう。俺と違って、異性の友だちすらいない、みたいなことはないだろう。


『リアルの男友だちはちょっと…。弱味を握られそうじゃないですか』


まぁ、そうかもしれない。この前の礼に付き合えみたいな強欲な男がいても不思議じゃない。


『たしかに』


『その点、ユウキさんみたいなリアルの友だちじゃない人なら、友だちに恋人がいないとバレることもないですし、いいかなぁと』


『でも、出会い系で会った人がサクラさんを無理矢理襲うかもしれないですよ?』


『…たしかにそうですね』


あれ?この人実は結構抜けてるのか?

出会い系サイトでの未成年淫行問題やら、傷害事件やら発生していてニュースになる世の中だぞ。


『やめておいたほうがいいと思いますよ』


俺はなぜかサクラを説得する羽目になっていた。でも、そんな時間も少しは楽しいと思えてしまった。多分、このサクラはそんなに悪い人じゃないのかもと。リアルで会ってたら意外と仲良くやってたのかもしれない。


そんな叶いもしないことを心のどこかで思っていたときだった。



『よかったら今度一緒に食事でもどうですか?』


『俺の言葉伝わらなかったですか?』


『伝わりましたよ。でも、ユウキさんはそんなことしないですよね、そういうことする人はわざわざ忠告しないと思います』


『いや、騙すために忠告するんじゃない?』


俺は繰り返し説得しようとメッセージを送るものの、押せ押せムードに飲まれて大量失点するピッチャーのように、流されてしまい、会う約束を取り付けてしまった。


『それに、私たち住んでるところ近いみたいですよ?半径1km圏内って出てますし。実はどこかで会ってたりするかもしれませんね』


…本当に会えるかどうかはわからない。行ったら誰もいない、みたいなこともあるだろう。なんなら、それでもいい。

今はとにかく、明日の休日昼間、会うことになるかもしれないサクラの事が少し気になってしまったから。





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