第2話 サクラが幼なじみだった件

「「あ」」


待ち合わせ場所に向かうために、家を出てから数分。偶然、家から出て道を歩き出そうとする幼なじみに出会った。


餅田桜、幼なじみであり、俺と同い年の大学2年生。幼稚園から中学までは一緒。高校は俺より少し上のランクに、そして大学もまた俺より少し上のランクの公立大学に通っている女子大生である。


「久しぶり」


知り合いだし、仲が悪いわけでもないし、見て見ぬふりをするのも変だと思い声をかける。


「そうだね…最近…っていうか、中学以降あまり話してないもんね」


向こうも同じように思ったのか、すっと俺の隣について言葉を交わしてくれた。

中学時代はお互いスマホを持っておらず、連絡先交換を行っていないまま、高校大学と進んでしまったため、会話をするのは久々である。


「そういえば、この前おじさんとおばさんウチ着てたよ」


「みたいだね。ごめんね、迷惑かけて」


「いや全然。こっちこそ、たまにそっちにお邪魔してるしお互い様じゃないか?」


自分たちのことじゃなくて親の話を初っ端からする当たり、なんとなく関係性がわかるよな。




「そういえば、昔は一緒にいると弄られたよな。それが嫌になって距離を置いたんだっけ」


ようやく、自分たちの話に移る。

俺たちは幼稚園児からの仲だった。親同士も幼稚園からの付き合いなので、まあまあ疎遠になった今でも親同士は子どもたちよりも仲がいいらしい。この前はウチに桜の両親が来て飲んでたし。


「私と勇気の苗字も、弄られる理由だったしね…。今は流石に気にする歳でもなくなったけど」


俺の苗字の柏木、桜の苗字の餅田。

2人合わせて柏餅とか言われてたんだよなぁ。そのせいで尚更カップル感が強くて恥ずかしくて…そんなわけでお互い距離を置いたのだ。

というか、桜の場合苗字が餅田で名前が桜なのは親御さんに問題ありじゃないか?桜餅じゃないかと、幼少期の俺は思ってたぞ。


朗らかな性格で、両親が良い人なのは幼少期から知っている相手なのでわかるが、名付けのセンスはなかったらしい。


「勇気は、今日予定あるの?」


「うん、少しばかり」


「そっか。…同じ方向?」


「みたいだね」


2人並んで歩き出すこと数十分。お互いの行く先が同じみたいで、十字路、三差路、五叉路…はなかったが、とにかく別れ道が多くあったのに2人して同じ方向だった。


「私はこの駅前なんだけど…勇気は?」


「俺も」


「そっか…えっと、ちょっと外すね?」


「あぁ、うん」


トイレか何かかなと思ったが、幼なじみといえども失礼だなと思い口は謹む。


『駅前に着きましたけどいらっしゃいますか?』


ポケットに入れたスマホの振動を感じて開くとメッセージが届いていた。


『こっちも着きましたよ。どの辺にいらっしゃいますか?』


「あ、お帰り」


「う、うん。…その、誰か来てたりした?」


「いや?というか駅に入っていく人なら多くいるけど」


そういうと、隣にいる俺に見えないように背を向けて何かを弄っていた。


『駅前の時計台の真下にいるんですけど…どの辺にいらっしゃいますか?』


今度は胸ポケットに入れていたスマホから振動がきたので画面を開くとメッセージが。


時計台の真下って…ここだよな。

身近にいる人物は…首を回して180度ほど周囲を見渡すが駅の中に入っていく人物しかいなかった。

念の為に、後ろの180度も見ておこうと、時計台の周りを一周してみる。



一周し終えようと、俺の隣にいた桜の前を通ったときだった。



『本当にいらっしゃいますか?…だれもいないんですけど…』


そんなメッセージを打ち込んでいる桜のスマホが視界に入ったのは。




…冷静になれ。クールな渋い男なら、胸ポケットから取り出すのタール14mgはありそうな煙草。それで気を落ち着かせようとするのだろうが、俺の場合は生憎フ○スクしか入ってなかったので無意味だ。しかも恐らく咽せるだろうし、むしろ気は動転しそうだ。


サクラが、桜なのか?

状況証拠として、待ち合わせ現場にいるのは俺と桜。時計の周りを一周して誰もいなかったのを確認したので、間違いない。

名前がサクラ、教えてもらったトークアプリでの名前はさくら、これが本名だとしたら桜は条件を満たしている。


この状況証拠だけでも十分かもしれないが、決定的ではない。

確信を持つために、


『サクラさんって、今日の髪型ポニーテールで、上はピンクのカーディガンで、ロングスカートですか?』


今隣にいる、桜の服装を記述したメッセージを送信する。


胸が高鳴っているのがわかった。スマホを持つ手が震えているのがわかった。呼吸のリズムが少しだけ乱れたことがわかった。





『そうです。もしかして遠くから見てますか?恥ずかしいので早く来てもらえませんか?』



状況証拠に限らず、物的証拠までも入手してしまった。もうこれはクロだ。

この、サクラさんは俺の幼なじみの餅田桜で、どうやら幼なじみとマッチングしてしまったらしい。


先程の俺と同じように周囲を見渡して、周りを一周して帰ってきた桜に、なんといえばいいのかわからないまま、スマホを持つ手が震えていた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

出会い系で1km圏内のサクラと会うことになったら、幼なじみの桜と出会った @kinokogohan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ