目的地『吹見』

最悪だ。吹見小学校までの道が工事で渋滞していたり、退勤ラッシュが始まってしまい思うように進まなかったり、運転手が道を間違えたり。

ここまでは百歩譲って良しとしよう。


「そんなこと言われても困るんですよねぇ」


「こっちは急いでいるんです」


「私は制限速度守って走っているので。それとも信号無視したり、速度オーバーしろってこと?」


「そんな事言ってませんけど、道間違えてましたよね?そのせいで約束に遅れそうなんですけど、何とかならないですかと聞いているだけです」


「それについてはもう謝ったでしょ。しつこいなぁ」


タクシーの運転手が大外れだった。横柄というか露骨に嫌々仕事をしていますというのが態度に出ている。依頼主へ連絡を取ろうとしても、呼び出しは鳴っているのだが一向に繋がらない。

待ち合わせの時間はもう目前に迫っていた。



焦る気持ちを紛らわせようと思い窓の外の景色を眺めていると、民家が少しずつ減り人が住んでいるかどうかも怪しい家屋がちらほらと見えるようになってきた。

田んぼには稲が西日を受けて何とも物哀しい。


「お客さんの目的地、吹見小でしたっけ」


「…ええ」


運転手の方から話しかけてくるとは思ってなかったので多少驚いた。私としては世間話なんてどうでもいいから早くして欲しいというのが本心だったが。


「確か吹見って廃校でしょ、なんでまたそんな所に行くの?」


「どうして吹見小学校は廃校になったのか知ってますか?」


「どうしてって、通う子供が少なくなったからじゃないか?ここら辺も随分過疎化が進んでるようだしな」


確かに少しずつ民家も減り、舗装された道路も修繕されていないのか、時折車内が揺れる。


「そういえば、学校で子供が亡くなったなんて話もあったような気もするな」


「え、吹見小学校でそんな事があったんですか?」


「俺も詳しくは知らないけどよ…」


タクシーを路肩に停め、運転手の神妙な顔がルームミラー越しに見える。幽霊やオカルトの類いは信じてはいないが人が亡くなっていると聞くと、やはり少し気味が悪い。固唾を呑んで次の言葉を待っていると、


「えっ!?」


バタンと勝手にタクシーのドアが開いた。外に人影も見当たらない。


「着いたよ」


ドアは運転手が操作していただけだった。良く考えれば分かったようなものの、あの時の雰囲気に飲まれてしまい、心臓が跳ね上がった。


「本当にここですか?」


降ろされたのは小さな山の手前。小学校などどこにも見えない。


「吹見小はこの山を少し入った所にあるよ」


「手前までお願いできませんか?」


道が細いから無理だと言って、精算を済ますと運転手はさっさと発車してしまった。

山からは蝉の鳴き声が絶え間なく聞こえてくる。

依頼主を待たせている以上、行く以外の選択肢はない。

日没までさほど時間は残されていないだろう。何としても出来るだけ早く依頼主と合流しなければと、私は吹見小学校へ向けて歩き出した。

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